天
上町支部 吉野なでしこ
同し匂間違ごっ美人の手を握っ
(おなし匂 まっごっシャンの 手をにぎっ)
(唱)妻ん丸り手と違ごた感触
(唱)(かかんまり手と ちごたかんしょっ)
例えばの話ですが、デパートで一緒に買物をしていて、買物に夢中だった夫が「どら行こうか」と隣にいた妻の手を握ったつもりでしたが、そこには妻でなく別な女性が立っていて、香水の匂いが同じだったという偶然が重なりました。
そんなありえないような着眼が秀れていて、まさに匂いによるハプニングです。
地
清滝支部 鮫島爺児医
匂ぜ負けっ休肝日どまけ忘れっ
(かぜまけっ 休肝日どま けわすれっ)
(唱)都合次第で臨機応変
(唱)(都合次第で 臨機応変)
食事会に出席して、当然酒も出ました。週一回の休肝日なので、「今日は飲まない」と覚悟を決めていましたが、同僚たちがおいしそうに飲む焼酎の匂いに、その決断はあっさりと撤回でした。
これは自分自身の意思の問題ですので他人は何も言えませんが、下五の「け忘れっ」と恍けた所が郷句人らしいです。
人
武岡 志郎
佳か匂ん娘い老爺も振い返っ
(よか匂ん おごいおんじょも ふいかえっ)
(唱)度々振い向っ違わせた首
(唱)(はいとふいみっ たごわせたくっ)
外出先の道すがらの情景のようです。擦れ違いざまに感じたいい匂いに、何故か自然に反応して通り過ぎた女性の後ろ姿を見てしまう男の性ですが、まだまだ衰えていない嗅感、元気で若い証拠です。
脳の活性化のためにも、大いに外へ出て、花や潮の香りなどを嗅ぐことも必要かもしれません。
五客一席 紫南支部 紫原ぢごろ
匂ん付たシャツで遊だち女房け発覚っ
(匂んちた シャツであすだち かけばれっ)
(唱)隣い座ったホステスん匂
(唱)(とない座った ホステスんかざ)
五客二席 城山古狸庵
良か匂で客く引っ寄すい赤提灯
(よか匂で きゃくひっよすい あかちょちん)
(唱)焼き鳥の匂ぜ暖簾ぬ潜っ
(唱)(やきといのかぜ 暖簾ぬくぐっ)
五客三席 武岡 志郎
門口に帰れば料理の匂が待っ
(かどぐっに もどればじゅいの 匂が待っ)
(唱)鼻をピクピク今日はカレーか
(唱)(鼻をピクピク 今日はカレーか)
五客四席 清滝支部 鮫島爺児医
鰻ぐ焼っ匂で覚んだ腹ん虫
(うなぐやっ 匂でおずんだ 腹ん虫)
(唱)グーち鳴ったで鰻ぐ食おかい
(唱)(グーち鳴ったで うなぐくおかい)
五客五席 上町支部 吉野なでしこ
受験生匂が気いなっ上ん空
(受験生 匂がきいなっ うわんそら)
(唱)香水の匂ぜ 集中が出来じ
(唱)(香水のかぜ しゅうちゅがでけじ)
秀 逸
清滝支部 鮫島爺児医
美人の娘格好も良かが匂も良か
(シャンのおご かっこもよかが 匂もよか)
化粧品 匂ん良かとは 値段が高し
(化粧品 匂んよかとは ねがたこし)
紫南支部 紫原ぢごろ
妙だ匂ち思め思め食たや腹下し
(すだ匂ち おめおめくたや 腹下し)
稽古着ん匂い部活が懐かしゅし
(稽古着ん 匂いぶかっが なつかしゅし)
城山古狸庵
新焼酎ん匂がたまらん飲ん平父親
(しんじょちゅん 匂がたまらん のんべとと)
潮ん匂とめ戻っ来い浜遊っ
(しおん匂 とめもどっくい はまあすっ)
作句教室
倦怠期長げこっ両方仏頂面
(倦怠期 なげこっまんぼ ぶっちょづら)
このような句を偶に見ることがありますが、これは上五・中七・下五がすべて名詞止めになっており、「三段切れの句」と呼ばれています。ことばが途切れ途切れで、ことばの繋がりやリズムが悪く、作品としては好ましくありません。
このような句を作らないようにするためには、助詞をうまく使わなければいけません。そこで、今月号の天・地・人の三才の句では、どのように助詞が使われているのかを見てみましょう。
同し匂間違ごっ美人の手を握っ
(おなし匂 まっごっシャンの 手をにぎっ)
匂ぜ負けっ休肝日どまけ忘れっ
(かぜまけっ 休肝日どま けわすれっ)
佳か匂ん娘い老爺も振い返っ
(よか匂ん おごいおんじょも ふいかえっ)
赤文字の所が助詞で、これらの助詞の働きによってことばのリズムも良くなっています。この中で、方言特有の助詞の表記がありますので、それを見てみます。
「匂(か)ぜ」
これは、共通語では「匂(にお)いに」という意味で、助詞「に」が使われていて、方言では、「匂(かざ)に」「匂(かざ)い」「匂(か)ぜ」と変化し、ことばを縮めた形の助詞の表記となっています。
「匂(かざ)い」から「匂(か)ぜ」となるのは、共通語の助詞「に」は方言では「い」となりますので、その助詞「い」と前の語が結びついた「ざい」が「ぜ」に縮まり、表記では、その「ぜ」を送りがなにして、助詞「に」の働きをさせています。
これは、前の語が行のア段・オ段の場合は、その行のエ段が送りの助詞となります。
「女房(かか)い」が「女房(か)け」(か行のエ段け)
「外(そと)い」が「外(そ)て」(た行のエ段て)
また、前の語がイ段・エ段の場合は、その語が送りの助詞となります。
「駅(えき)い着(ち)た」が「駅(え)き着(ち)た」
「口(くち)い入(い)れっ」が「口(く)ち入(い)れっ」
日常会話を次のように表記してみます。
「何処(ど)け行(い)っとな」(何処〔どこ〕い)
「胃の検査(けん)せ行(い)たっくっで」(検査〔けんさ〕い)
このように鹿児島の人は、誰に教わった訳でもないのに、自然にことばを縮める技を持っています。
作句では、ことばの位置や文字数を考えて、縮めたり、縮めなかったりと対応することになりますが、薩摩郷句を作句する上で、最初の壁となる方言での助詞の表記を理解することはとても大事です。
薩 摩 郷 句 募 集
◎7 号
題 吟 「 人相(にんそ)」
締 切 平成24年6月5日(火) ◎8 号
題 吟 「 全部(ずるっ)」
締 切 平成24年7月5日(木)
◇選 者 永徳 天真
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
鹿児島市加治屋町三番十号
鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:ihou@city.kagoshima.med.or.jp |
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