鹿市医郷壇

兼題「名刺(めいし)」


(391) 永徳 天真 選




城山古狸庵

名刺いな博士ちあっが診断違げ
(名刺いな 博士ちあっが みたてちげ)

(唱)大概な事じゃち信用は落てっ
(唱)(てげなこっじゃち しんよはおてっ)

 特別な、知人からの紹介の偉い医師でしたが、結果的には誤診だったようで、名刺の博士の名も泣いています。
 人間の間違いは常ですが、医療現場においては、それは命取りとなることもあります。権威のある名刺であればある程、その名に恥じぬよう、常に努力が必要であるという、戒めの句だと思います。




武岡 志郎

裏ずいも名刺し役職く書っ箔く付けっ
(裏ずいも めいしやくけっ はく付けっ)

(唱)そげん自慢ぬせんでんよかろ
(唱)(そげん自慢ぬ せんでんよかろ)

 何かと大変である役を引き受けることは、誰にでもできることではなく、その上複数の役をこなすのは、行動力のある人でないとできません。
 それは認めるのですが、こんな名刺を目にすると、驚きの反面、自慢したがりの人かと、何故か引いてしまうものです。事も過ぎると逆効果のようです。




上町支部 吉野なでしこ

多け名刺顔も浮うかばじ捨せかた
(うけ名刺 つらもうかばじ うっせかた)

(唱)二度と会うこちゃ 無かろち思っ
(唱)(二度とおうこちゃ なかろち思っ)

 仕事上や私的な事で、いろんな人との出会いがあり、必要に応じて数多くの名刺の交換もしてきました。
 そんな名刺の整理のしかたは、性格に由りますが、そこらへんに溜め込んでいる人が、思い立って仕分けをしたのでしょう。思い出せない名刺の主には申し訳ないが、縁を切った瞬間かもしれません。


 五客一席 清滝支部 鮫島爺児医

初名刺何言はならん大人気分
(はつめいし なんちゅはならん おせきぶん)

(唱)責任感ぬ肌で感じっ
(唱)(責任感ぬ 肌で感じっ)


 五客二席 武岡 志郎

名刺いも長が付たなあ付けが利っ
(名刺いも ちょうがちたなあ つけがきっ)

(唱)こげん効果があっとな意外
(唱)(こげん効果が あっとな意外)


 五客三席 城山古狸庵

ポケットん名刺が原因で夫婦喧嘩
(ポケットん 名刺がもとで みとげんか)

(唱)此た何なちひっ破られっ
(唱)(こんたないなち ひっきゃぶられっ)


 五客四席 紫南支部 紫原ぢごろ

停年で残った名刺捨てきれじ
(停年で 残った名刺 捨てきれじ)

(唱)未練な無どん男ん哀愁
(唱)(未練なねどん 男んあいしゅ)


 五客五席 霧島 木林

新け名刺使こもせんうち配置換え
(にけ名刺 つこもせんうち 配置換え)

(唱)可哀相し名刺はメモ紙になっ
(唱)(ぐらし名刺は メモがんになっ)



   秀  逸

清滝支部 鮫島爺児医

角が丸り名刺が増えっ愚痴い女房
(かどがまり 名刺がふえっ ぐぜいかか)

喜寿過ぎりゃ名刺い年齢も書こごちゃっ
(喜寿過ぎりゃ 名刺いとしも かこごちゃっ)

思い出ん名刺は今も見て笑るっ
(思い出ん 名刺は今も 見てわるっ)


城山古狸庵

どん店か名刺を見てん思め出さじ
(どん店か 名刺をみてん おめださじ)

写真付名刺を撒たが又落選っ
(写真つっ 名刺をめたが またおてっ)


上町支部 吉野なでしこ

会長ち名刺ばっかい偉ろけなっ
(会長ち 名刺ばっかい えろけなっ)

世話役を名刺で選っ悔やんかた
(せわやっを 名刺でえらっ くやんかた)


紫南支部 紫原ぢごろ

名が売れっ名刺は不要ん男けなっ
(名が売れっ 名刺は不要ん おとけなっ)


武岡 志郎

あばてんね名刺を撒たが当選らせじ
(あばてんね 名刺をめたが とおらせじ)



《雑 吟》

武岡 志郎

見事ち咲っ見物人も居らんて山桜
(みごちせっ みてもおらんて 山桜)

増税ち復興ん最中け冷水すかけっ
(増税ち ふっこんさなけ みすかけっ)


 作句教室

 名刺とは自己宣伝の小道具
(名刺とは 自己宣伝の 小道具)

 このような句がありました。下五が字足らずですが、それとは別に全体が共通語の表現で、方言での表現になっていません。これでは、方言を使って表現する薩摩郷句とは言い難いです。
 少し意味合いは違ってきますが、例えば次のようにまとめれば薩摩郷句らしくなるのではないでしょうか。

 某ち自己宣伝ぬすい名刺
(だいてろち 自己宣伝ぬ すい名刺)

 そこで、実際に作られた作品を元に、共通語の表現との違いを比べてみましょう。破調句になったものもありますが、まず原句を共通語に変えてみました。

 恥ずかしさも痛さに飛んだ痔の手術
(恥ずかしさも 痛さに飛んだ 痔の手術)

 儲けたら猫の茶碗も柿右衛門
(儲けたら 猫の茶碗も 柿右衛門)

 退職たなら裸踊りもする校長
(やめたなら 裸踊りも する校長)

 天を向く鼻は血筋と諦める
(天を向く 鼻は血筋と 諦める)

 これらの原句は次の通りですが、表現のどこに違いがあるのかをよく確認していただき、作句ではこのような味わいのある方言での表現を心掛けてほしいです。

 恥なさも痛せひっ飛だ痔の手術
(げんなさも いたせひっつだ 痔のしゅじゅっ)

                サチ

 儲け上がっ猫ん茶碗も柿右衛門
(もけあがっ 猫ん茶碗も かきえもん)

                蟷螂

 退職たなあ裸踊いもすい校長
(やめたなあ 裸踊いも すいこうちょ)

                三洋

 天ぬ向た鼻は血統じゃち諦めっ
(天ぬみた 鼻はすっじゃち 諦めっ)

               人力車


 薩摩郷句鑑賞 57

枕元て子どが並るだや目を落てっ 
(まくらもて 子どがなるだや 目をおてっ)

             中間 紫麓

 父親か母親かは分からないけれど、どうも助かりそうにない危篤状態が続いたのか、当の病人が、子どもに会いたいと言ったのか、よそで働いている息子も遠くへ嫁いでいる娘も帰ってきたのである。
 子どもたちが枕元に揃うと、一人一人の顔を見て、さも満足したように、静かに息を引きとったのである。「目を落とす」というのは、息を引きとること。
 ※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋

薩 摩 郷 句 募 集

◎6 号
 題 吟 「 物好っ(ものずっ)」
 締 切 平成24年5月7日(月)
◎7 号
 題 吟 「 人相(にんそ)」
 締 切 平成24年6月5日(火)
◇選 者 永徳 天真
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:ihou@city.kagoshima.med.or.jp


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