=== 随筆・その他 ===

女性の呼称


南区・谷山支部
(東開内科クリニック) 植松 俊昭

 近年feminism(女権拡張運動)の高まりにつれて,文言表記の変更を余儀なくされる事例が増えている。
 特に「man」に対して大方のfeminist(男女同権主義者)たちは「男」と解し,もう一つの大きな意味「人,人間,人類(mankind)」を認めたくないように受け取れなくもない。たとえば「chairman」を「chairperson」に,「key man」を「key person」に,「businessman」を「businessperson」になど。
 そもそも旧約聖書によれば,神が創り給うた最初の人類(Man)はAdam(男)なのだから,何ごとの矛盾もないと思うけれど。
 それにしても「manpower」を「personpower」に,「mankind」を「personkind」になどと言い換える傾向を寡聞にして知らない。不思議なことではある。
 以下は本年2月25日付の讀賣新聞による。フランスのフィヨン首相は,未婚女性に対する敬称「マドモアゼル(mademoiselle;略記Mlle.)」を,必要がない限り公文書で使わないよう求める通達を各省庁や自治体に出した。今後女性を示す敬称は従来の既婚女性に対する「マダム(madame;略記Mme.)」に統一されるそうな。けれど,男性へのそれは今まで通り「ムッシュ(monsieur;略記M.)」のままとのこと。これは,「ムッシュ」だけの男性と同じ権利を求める女性団体の主張を,受け入れたものと思われる。
 英語圏諸国で最近,Miss(未婚)とかMrs.(既婚)とか区別せずにMs(ミズ)と呼称するようになったのと同じ文脈なのだろう。おやおやフランスよお前もか,との感じがしないでもない。ひときわ母国語の保護に敏感かつ熱心なこの国にしても斯くの如きか。
 それに引き換え,我が国では男女を問わず「さん」のみ。欧米諸国の何とまあ遅れていることよ。さはさりながら,世界で最も流麗とされるフランス語。美しい響きをもつ「マドモアゼル」が公文書畑から刈り取られるのは,いささか忍びない気もする。
 生涯独身だったココ・シャネルは常に「マドモアゼル・シャネル」であったし,離婚をしようが,出産を何度しようが,映画の終わりに出るエンドロールでは,「マドモアゼル・カトリーヌ・ドヌーブ」と表示されている(3月5日付「産經抄」より)けれど,はてさて今後どうなることやら。いずれにしても悩ましい問題ではある。
 ついでながら,かつて「週刊朝日」の名編集長であった故扇谷正造氏の著書に,『論語』の「四十にして惑わず」(不惑)をもじった,「四十にしてマドモアゼル」ってのがあったっけ。どうでもいいことだけど。



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