随筆・その他
アイルランド自動車事情
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東区・紫南支部
(まごころ内科クリニック) 早川 仁 |
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愛甲隆昭先生より紹介して頂き,今回このような場を与えて頂き有難く存じております。とはいえ,私はそもそもあまり深入りする趣味も無く,趣味と言っても自己流のものばかりでうんちくを語るほどの知識も無く,紹介して頂いた当初何を書くかいろいろと考えました。そこで,何か珍しいことであれば深い知識は無くても書ける,と思いついたのが今回のタイトルでした。私は2004年1月から2005年12月までアイルランド共和国に留学しましたので,その時のことを書かせて頂きます。
アイルランドと言われて多くの方がまずイメージされるのは,テロがあって危ない国では?ということではないでしょうか。出国前に「大丈夫なの??」と聞かれたことが多々ありました。しかし,私が行っている間にテロの話は聞きませんでした。それに,テロが多かったのは北アイルランドであって,私がいたのはアイルランド共和国でした。同じ島の中でしたが,別の国です。イギリスのすぐ西にある北海道程度の大きさの島です。私は,首都のダブリンに2年間滞在いたしましたが,のんびりとした平和な国でした。
交通手段はあまり発達しておらず,主な交通手段は自動車になります。あえて言えば路線バスが通勤に利用可能な手段でしたが,本数は少ない上に時間通りには来ず,あまり実用的ではありませんでした。それで多くの方が自動車を利用されております。留学中の自動車は,通常前任者の車を譲り受けて乗ることも多いかと思いますが,残念ながら私の場合は前任者がおらず,自分でどうにかしないといけませんでした。アイルランドで自動車を登録・使用して感じたことがありましたので,簡単にまとめさせて頂きます。ちなみに変化の多い国ですので現在は全く異なるかもしれませんが,私が留学していた当時のこととしてお読みください。
自動車の準備と維持
1.個人輸入
前述の通り,私には前任者がおらず自分で自動車を準備する必要がありました。そういった時に,現地で購入するか所有していた自動車を日本から個人輸入する方法があります。そこで,事前にアイルランドの中古車事情をしっかり調べました。私は3列シートの車が欲しかったため,エスティマやオデッセイ等を検索しましたが,どれも日本では考えられない半端ない値段でした。10万キロ以上走行でも車体本体価格が100万円を下るものはありません(15万キロや20万キロ走行の車両も含みます)。信じられない市場で驚きました。現地での購入はあまり現実的ではないなと痛感致しました。しかし車は必要なので,輸入はどうなのかを調べました。そのころ私は車に乗っておらず,所有していた車が無かったため,中古車を購入して個人輸入してみることを考えてみました。きっと日本で同程度の車であれば半額以下で買えるはずです。そして日本での中古車市場と送料を調べました。2年滞在することを念頭に入れ,現地で売って帰って来る計算です。現地で中古車は高くで売られているのはわかっていましたので,ある程度のキャッシュバックも考慮しての選択でした。個人的に荷物を海外配送して頂ける会社を検索し,車1台で見積りを取りました。ちなみに,車とはいえ他の国に送る場合は「物」でしかありません。現地で車両登録されて初めて車と認められ公道を走ることが出来ます。今度は輸入手続きを調べたところ,自分が6ヵ月以上所有していた車があれば,比較的登録手続きも簡単に輸入出来るようでした。しかし,そうではない車は関税対象となり費用が別途必要で,車種によりさまざまですが数十万円程度のようでした。自分で試算した結果,日本での中古車購入費に配送料,関税,登録をすべて足しても100万円はかからないようでした。現地で購入した場合,車両のみで150万円から200万円かかることを考えると,面倒でもやる価値はあると思いました。
次に中古車の検索です。私は,たまたま車関係の仕事をしている知り合いがいましたので,2年だけ乗れたら良いという考えのもとに中古車を見つけ,バッテリー,タイヤ,オイル,その他考えられる消耗品すべて代えて,12万キロ走行のホンダ オデッセイを準備してもらいました。その時の車体本体価格は30万円でした。もちろん登録費は含まれません。そして,前もって連絡しておいたアイルランドまで運んでくれるという配送業者へ依頼して,いざ船出となりました。配送料の見積りは24万円でした。約2ヵ月の船旅とのことで,実際エンジンがかかるのか?潮風や揺れ等で不調な部分が出ないか?不安は尽きませんでしたがいよいよ待ちに待った到着日です。私の方が一足先にダブリン入りをして,首を長くして到着を待っていました。
2. 登録
到着日の約1週間前に,配送業者から到着日と受け渡し日の連絡が来ました。指定場所に取りに行き,書類にサインをしたら受け渡し終了です。ただし,まだナンバープレートはついておらず,そのサインした書類の写しが公道を走っていい許可証になるとのことです。その有効期限は,正確には覚えておりませんが1週間以内の短いものでした。その間にVehicle ration Officeという自動車登録専門のオフィスに行って登録が必要です。車を持って行ってみると,「ハンドルとアクセル,ブレーキがあってちゃんと動くし,シートとシートベルトもちゃんとあるのでOKです」と言われてすぐに登録終了でした。本当にこんな検査でよいのか??不思議な気持ちで手続きを終了しました。費用は約25万円でした。そして,そのときにナンバープレートがつくのかと思っていたら,登録ナンバーをもらっただけでした。ナンバープレートはナンバープレート屋に行きなさいと言われました。ナンバープレートが無い間は,登録書類を持っていたら普通に公道を走っていいと言われたので,ナンバープレートは後日にまわすことにしました。しかし,それが間違いでした。
翌日,走行しているところを警察に止められました…。登録したところで,何かあった場合には書類を見せたらよいと言われたことを伝えましたが,警察官によると,書類があってもナンバープレートが無いのは違法ということでした。ショックを受けつつ最寄りのナンバープレート屋を聞き,そこへ直行しました。注文して待つ間,これで無事終了かとほっとした気持ちでいました。しかし会計に行って見ると,はいどうぞとナンバープレートを渡されお金を払っただけでした。てっきり取り付けてくれるものだと思っていました。また落ち込みながら聞いてみると,みんな自分で木ネジを使って取り付けるそうです。木ネジで取り付けるのは嫌だったため,ドリルとネジを準備して車に元々あるネジ穴にナンバープレートを自分で取り付けました。
それから間もなくNational Car Test(NCT)を受けるように手紙が来ました。これは日本でいう車検のようなもので,予約をして1時間足らずで終わります。費用も1万円以下でした。これでやっと車の方は終了です。ここまでの費用総額は約80万円でした。現地で購入するよりかなり安く済んだのではと満足のいく結果となりました。
3. 自動車税と任意保険
アイルランドで車を走らせるためには,自動車税支払と保険への加入が義務化されています。日本では任意保険に当たりますが,任意ではなく義務で,その2つの証書をフロントガラスに張って見せておかないといけません。ここからはアイルランドで車を買っても同じようにかかる費用です。自動車税は予想していたよりかなり高く,2200ccのオデッセイで年間10万円以上でした。また,意外と苦労したのが保険会社との契約です。ほとんどの保険会社は,日本の保険会社が発行した英語版の無事故証明も認めてくれず,1年目扱いで年間40万円程度かかるとのことでした。その中,1社だけ認めてくれる会社を見つけて,年間約20万円になりました。それでも相当高いです。
4. ガソリン・修理等の維持費
ここまでで形はすべて出来上がりました。後は維持費になります。まずはガソリンですが,毎日のように価格が変動して,その変動幅はかなり大きいようです。私が滞在している間に,1リッターあたり120円から250円で変動していました。その頃の日本の相場と比べても2〜3割は高かったと思います。店によっての価格差もかなりあり,安い店を見つけて入るのが習慣でした。そして,ほとんどのガソリンスタンドにハイオクガソリンは置いてありません。どう見てもハイオク仕様だと思われる車もたくさん走っていましたが,見ていると,レギュラーガソリンを入れている方が多いようでした。
滞在中に2度程タイヤがパンクして交換が必要でした。それからオイル交換も当然必要です。これらの費用は日本と変わりなかったようです。
アイルランドの道路事情
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写真 1 駐車違反でクランプを付けられた自動車
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写真 2 アイルランドののどかな風景
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写真 3 制限速度100km/hの一般道路
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写真 4 制限速度80km/hの一般道路
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首都ダブリンでは,駐車違反の取り締まりがかなり厳しく,停めたらいけない場所に停めている場合は即座にクランプというタイヤロックを付けられます(写真1)。国に所属する専門業者が,年中車で走り回ってチェックしています。私が勤務していた大学構内でも,少しでもはみ出て停めていたら容赦なくロックされていました。ロックされた場合,窓に電話番号等の書いた紙が貼り付けられ,そこに電話をしてロックを外しに来てもらわないといけません。そして,現場で1日分約1万円の罰金を払わないといけません。電話が翌日になると2日分の支払いです。
アイルランドは,街から離れ10分も走ると緑と山と海と羊というのどかな風景になります(写真2)。バイキングより始まる戦争の歴史が深いこともあり,古い石造りの壊れた小さなお城がたくさんあり,一般公開されています。それも風景と相まって何とも言えない情緒を作り出しています。そんな中,驚くべき制限速度の標識を見ることが出来ます。通常の高速道路は120km/hですが,3車線程度の一般道路で70km/hです。少し速い印象はありますが,まだ理解出来ます。しかし,写真3と写真4は,それぞれ制限速度100km/hと80km/hとなりますが,どう考えてもこの道で制限速度を出すのは無理でしょう。出せるものなら出してみなさいと言わんばかりの標識で驚きました。それで,時に羊がひかれて死んでいるのを見るのもわかったような気がしました。
その他では3車線程度の国道で真上をクレーンで持ち上げたものが通っているのに,道路規制もせずその下を車が普通に走っていたり,文化の違いで考えの違いもあり,驚くものがあまりにもたくさんあるため語り尽くせません。ある意味いい加減な部分も多いのですが,それがある程度心地よい時もあり,国としては穏やかでのんびりした良い国だと思います。もしアイルランドへ赴く機会がありましたら,是非レンタカーを借りて遠出をしてみることをお勧めしたいと思います。
最後になりますが,アイルランドにおいて日本車は外車であり,関税など含めるとかなり高価なものです。例を挙げると,カローラの何もつかない最も安い新車で車体本体価格は400万円程度します。それでも日本車の品質や耐久性等は高く評価されており,かなり人気が高くて多くの人が欲しいと思っています。帰国してからは,つくづく日本で日本車に乗れることを有難いと思うようになりました。そして,私がアイルランドに持ち込んだ車は,帰国する際に約40万円で売ってくることが出来たという話で締めくくらせて頂きたいと思います。
| 次号は,ふるたクリニックの古田利久先生のご執筆です。(編集委員会) |

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