随筆・その他

リレー随筆

趣 味 ?

中央区・中洲支部
(放射線科内科池田診療所) 池田 耕治
 今年3月,16年ぶりにCTを更新した。不具合はなかったのだが,メーカー側から保守に係る部品の調達がいよいよ困難になる由の申し入れがあったためである。この装置への想いは特別であった。平成6年当時は比較的珍しかった単列のらせん走査型CTを導入した当初,検査速度と断層面の連続性に感激したものである(但し,導入後の数年間はこれを維持するために働かされたようなものだった)。とりわけ連続断面から構築される三次元構築像に魅せられた。
 構築法はその当時も今も大きく変わってはいない。CT検査で得られた位置情報とエックス線吸収値を擁するデータ上の容積単位(voxel)に,@一定の不透明度を与えて透過と反射で立体表現する。例えるならば,中華料理のピータンのような立体感覚を表現するVoxel Transmission法と,A二値化されたvoxel間に幕(微細な三角形の面の集合体)を設定し,仮想の光を当て浮かび上がらせる。石膏像のような立体を表現するSurface Rendering法と,B最大あるいは最小の吸収値を呈する領域をターゲットにして任意の視点方向に投影処理を行う立体影絵の手法であるMIP(Maximum or Minimum Intensity Projection)法などが主な処理方法として知られる。
 平成8年には各手法がどのような検査目的・部位に適しているかを評価しつつ,三次元構築像のそもそもの意義についての私見を報告する機会を得た1)。画像診断レポートとの関係性について『三次元画像は複数の断層面を基に読影者の頭の中で再構築された空間的なイメージをレポートに織り込み,補完する手段』と位置づけした。報告医の表現能力に依存し,ともすれば割愛されたであろう空間的な認識を直感的に伝える手段として期待された。また,外来診療では,インフォームドコンセントへの導入時から,経過説明に有用であろうと予想された。しかし,この時期の画像処理には莫大な時間を要し,検査直後の画像作成などはほぼ不可能な状態であった。
 平成13年,時期的には心血管系の診断が電子ビームCTから多列式検出器型CT(MD-CT)への移行期にあり,コロナリーCTという手法が『独立した三次元診断』として知られつつあった。MD-CTへの興味は非常に大きかったが,当時は価格や維持費ともに自院のような無床診療所などで維持できるような装置ではなかった。代わりにと言っては何だがCT画像情報をPC上で表示・解析・保管できるソフトウェアを追加した。コストは数十分の一であった。これによって,彩色画像処理を含めた三次元化はそれなりに高速化した。画像の転送は5インチMOディスクを介するもので,以前から保管してきた膨大な画像情報を基に,彩色処理での血管・臓器などの色調選択法2)や,消化管の『三次元診断』の可能性について検討を行った3,4)。結びは,やはり『CT走査の高速化とテーブル移動側の解像力の高いMD-CTが普及すれば』より精緻な三次元画像化が可能となりうる由まとめた5)。
 以来,MD-CTの導入までは10年かかった。経済的な余裕ができたためではない(ありえない)。普及によるMD-CTの低価格化と冒頭のような事情からである。検査時間は短くPCへの転送までの時間も大幅に短縮された。計画・撮像は自分で行い,画像処理から説明までもリアルタイムで患者とPCを見ながら行える。画像処理内容もいくつか追加されている。感激した。多くの新しい高機能機種に触れられる環境にあるドクターや,研修医や学生からみれば「今頃なにを」と思われるかもしれない。浦島太郎で結構。とにかく再び『三次元診断』が身近となった環境を10年ぶりに味わえることが楽しい。以下,導入3カ月間に収集した三次元画像のいくつかを供覧する。
 
画像 1 検診で右中下肺野の異常陰影を指摘。同一視点から肺と骨性胸郭を分離して表示した。
肺内病変なく右肋骨に骨折痕。

画像 2 膀胱癌からの肺転移例。Ray summation法というエックス線透視像をシミュレートした
手法で,三次元処理して平行法ステレオ像として表示した。塊状の病巣の広がりの状態や
気管支への侵襲,質の異なる病巣の広がりが示現されている。

画像 3 上段左は膵体部の嚢胞性病変。右は右水腎症及び後腹膜線維症疑い。
下段左右は同一症例で上行結腸憩室炎及び背側を上行する虫垂をとらえたもの。
Voxel transmission法で処理後前腹壁から切削。

画像 4 上段は被包石灰化した嚢胞。右は切削像。下段左,腹部大動脈瘤。
右膵臓癌(脾動脈に著明な広狭不整を認める)。

画像 5 左列は大腸ファイバー像/右列は仮想内視鏡画像
    仮想内視鏡画像はCruising Eye View法という内腔を自動的に描出する手法に
より,消化管のみならず血管内腔や気管支内腔の表示も極短時間で行える。


文 献
1)池田耕治ほか:CT-W950SR Volume Scanによる三次元再構築画像. MEDIX,27: 19-26,1996
2)池田耕治ほか:CT用画像処理ソフト“Light View”の使用経験. 鹿児島県医師会報605: 76-78,2001
3)池田耕治ほか:らせんCTによる消化管三次元処理像について 第1報 撮像法と画像処理法. 鹿児島県医師会報607: 97-100,2002
4)池田耕治ほか:らせんCTによる消化管三次元処理像について 第2報conventionalな消化管検査法との比較. 鹿児島県医師会報607: 92-95,2002
5)池田耕治ほか:CT用画像処理ソフト“Light View”の使用経験. MEDIX,37: 23-28,2002

次回は,堂園メディカルハウスの堂園晴彦先生のご執筆です。(編集委員会)




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