鹿市医郷壇

兼題「愛嬌(あいきょ)」


(382) 永徳 天真 選




城山古狸庵

誰せえも愛嬌ん良妻け夫は心配
(だいせえも 愛嬌んえかけ ととはせわ)

(唱)嫉妬亭主がちらちら見ちょっ
(唱)(じんきとのじょが ちらちらみちょっ)

 男は度胸女は愛嬌という諺があるように、これは男女が求める大切な要素であることは間違いないようです。
 しかし、滲み出る愛嬌と、作られた愛嬌の見分けはなかなか難しく、その愛嬌のせいで別の恋が生まれないかと心配な夫です。愛嬌も過ぎると、時には誤解を招くこともあり、要注意かもしれません。




紫南支部 紫原ぢご

愛嬌があいナースいな打っ解けっ
(あいきょうが あいナースいな うっとけっ)

(唱)入院暮らしも亭主しゃ楽しか態
(唱)(にゅいんぐらしも てしゃたのしかふ)

 通院する患者、入院している患者は、病院関係者の受付、医師、看護師には、信頼関係を求めています。
 病気に対して不安を抱える患者が、心を開くかどうかは、その人間関係にあり、この句の通り、愛嬌があれば心も和み、また、相手の立場に立った優しい対応には心も通じ、安心感も出てきます。




上町支部 吉野なでしこ

愛嬌無し良か縁談もがん崩えっ
(愛嬌なし よか縁談も がんくえっ)

(唱)どっか居っじゃろ似合たよな相手
(唱)(どっかおっじゃろ におたよなえて)

 恋愛結婚の事情とは異なり、仲人の紹介による縁談は、双方の結婚の条件をある程度満足する相手との見合いが、第一歩となります。初めて対面するその見合いは、愛嬌が全くなかったことを理由に、破談となりました。結局は他の条件よりも、男性の心を動かすのは、愛嬌が鍵であったことを物語っているようです。


 五客一席 紫南支部 紫原ぢごろ

ご愛嬌い下手な歌をちしゃしゃい出っ
(ご愛嬌い 下手な歌をち しゃしゃいでっ)

(唱)聞こごちゃ無どん義理で拍手
(唱)(きこごちゃねどん ぎいでてたたっ)


 五客二席 城山古狸庵

愛嬌ん無売場じゃ買わじ次ぎ移っ
(愛嬌んね ういばじゃこわじ つぎうつっ)

(唱)なっちゃおらんが社員教育
(唱)(なっちゃおらんが しゃいんきょういっ)


 五客三席 清滝支部 鮫島爺児医

女子ゴルフ臍を見すいもそや愛嬌
(女子ゴルフ へそをみすいも そや愛嬌)

(唱)テレビ中継や誠て気いなっ
(唱)(テレビちゅうけや まこて気いなっ)


 五客四席 上町支部 吉野なでしこ

愛嬌良し頑固親父もにこっなっ
(愛嬌よし いっこっととも にこっなっ)

(唱)滅多てな見せん貴重な笑顔
(唱)(めってなみせん 貴重な笑顔)


 五客五席 城西 桃花

西郷どんも観光客きな愛嬌顔
(せごどんも かんこうきゃきな あいきょづら)

(唱)良うおじゃしたち銅像が笑るっ
(唱)(ゆうおじゃしたち どうぞがわるっ)



 秀  逸

清滝支部 鮫島爺児医

面接じゃ愛嬌があれば先き決まっ
(めんせっじゃ 愛嬌があれば さき決まっ)

遼君のミスは愛嬌で次ぎゃ入れっ
(遼君の ミスは愛嬌で つぎゃ入れっ)

着物を着っ靴しか履けん愛嬌じゃろ
(べべを着っ くっしかはけん 愛嬌じゃろ)


紫南支部 紫原ぢごろ

美人よっか愛嬌が一番のよか嫁御
(シャンよっか 愛嬌が一番の よか嫁御)

政治家は愛嬌は要らん仕事つせえ
(政治家は 愛嬌はいらん しごつせえ)


城山古狸庵

愛嬌が過ぎっち青年を爺が叱っ
(あいきょうが すぎっちにせを じじががっ)


上町支部 吉野なでしこ

流行っ店愛嬌ん良か娘優しか娘
(はやっ店 愛嬌んよかこ やさしかこ)



 作句教室

 私が所属する渋柿会では、薩摩郷句誌「渋柿」を毎月発行し、会員の発表した作品を掲載しています。
 また渋柿会には、鹿児島市内に六支部、他に鹿屋・志布志・大崎・宮之城・都城支部とあり、合計十一支部があります。各支部では、数名の会員が集まり毎月例会を開き、薩摩郷句の研鑽を積んでいます。私が所属する緑風会支部の例会作品の中から、秀句をいくつか紹介します。

題「囲っ(かこっ)」     上山 天洲

白寿爺を家族中で囲っ祝ん膳
(はくじゅじを けねじゅで囲っ ゆえん膳)


題「無駄(すだ)」      江口 紫朗

無駄かもち思もどん買込だ育毛
(無駄かもち おもどんけくだ いくもざい)


題「政治」          吉岡 道場

呆え政治揚げ足取いに明け暮れっ
(ぼえ政治 あげあしといに あけくれっ)


題「多え(うえ)」      樋口 一風

議が多えで万年暦さあち奉っ
(ぎが多えで まんにょんさあち たてまつっ)


題「手紙(てがん)」     上薗 佳笑

好っ好っち便箋一杯ぺ字が躍っ
(すっすっち 便箋一いっぺ 字がおどっ)


 「渋柿」の他にも、毎月発行されている薩摩狂句誌は、「さんぎし」「にがごい」があり、これらの郷土文芸誌は、県立図書館や市立図書館で閲覧することができます。
 作句力の向上は、他人の作品に学ぶことが第一ですので、機会がありましたら、ぜひこれらの冊子に目を通していただきたいものです。



 薩摩郷句鑑賞 50

貸せ言たや曽我どん向っの傘を出っ
(かせちゅたや 曽我どんむっの 傘を出っ)
               山下須奈穂

 建久四年五月二十八日は、曽我兄弟が父の仇、工藤祐経を討ち果たした日と言われ、ちょうど今日にあたる。昔はこの日、三大行事の一つである曽我どんの傘焼きが盛んに行われたものだが、最近はまことに寂しくなってしまった。
 傘焼きの傘は、使い古したものを貰い集めたものである。この句は、傘を借りたら、その曽我どんの傘焼きに出しそうなおんぼろ傘を貸したというもので、思わず吹き出しそうなおかしさや、けちに対する皮肉がきいている。
 ※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋


薩 摩 郷 句 募 集

◎9 号
題 吟 「 倹し(つまし)」
締 切 平成23年8月5日(金)
◎10 号
題 吟 「旅(たっ)」
締 切 平成23年9月5日(月)
◇選 者 永徳 天真
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:ihou@city.kagoshima.med.or.jp
ホームページ:http://www.city.kagoshima.med.or.jp/


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