2010年1月末,「タスマニア島を歩く10日間の旅」に参加した。
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| 図 1 タスマニア全島地図 |
1. タスマニアとは?
タスマニアといっても,一般には観光地としてあまり聞き慣れない場所かも知れないが,知る人ぞ知る南半球で屈指の自然美を誇る島なのである(図 1)。数億年前の地殻変動でオーストラリア本島から切り離されて孤島となったため,ここでしか見ることの出来ない固有の動植物の宝庫として知られている。かねがねこの地を訪れてみたいと思っていたが,その思いを後押ししてくれたのは,偶々一昨年末オーストラリアのキャンベラに滞在していた娘達からの“タスマニアはとても素晴らしい所よ”という一言であった。
2. 成田〜シドニー〜ホバート
飛行時間約9時間30分(時差2時間),参加者は8人,添乗員の三浦さんはタスマニアに極めて精通している人,成田からカンタス航空にてシドニーへ。厳寒の日本とは正反対で夏の盛りのシドニーでは,海水浴場一番人気のボンダイビーチやオペラハウスを観光の後,空路タスマニアの州都ホバートへ到着。タスマニアは,地図上オーストラリア本島から僅かに南東へ外れたちっぽけな島にしか見えないものの,その面積は北海道の80%という広さである。しかし人口は僅かに50万人に過ぎず,そのうち20万人がホバートに住んでいる。ホバート空港へ着陸するまで上空から島全体を鳥瞰したところ,森と湖が随所に点在して見るからに豊かな自然が想像できた。ホバートの港にあるレストランで夕食後近辺を散策するも,日頃港に停泊しているという悪名高きシーシェパードの船は出かけているらしく見当たらなかった。
3. ホバート〜マウントフィールド国立公園〜タラリア
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写真 1 ユーカリの巨木
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朝早くホテルを出発,現地ガイドの中台さんはタスマニアに魅せられて奥さんと共に住み着いてしまったとか。彼の運転するマイクロバスで標高1,270mのウェリントン山頂までドライブ。途中固有植物のシダ(マンファン),南極ブナ,1,000m付近からスワンプガムと呼ばれる巨大なユーカリや南極ブナが生い茂げり,頂上付近は玄武岩の柱状節理と呼ばれる独特の構造の岩肌が見られた。
真夏とは思えないほど寒い頂上から,パノラマチックに美しいホバートの全容を見渡すことができた。平地へ降りてダーウェント川沿いを1時間ほどで,マウントフィールド国立公園入口へ到着。昼食後,高さ80mもあるユーカリの大木(写真 1)や太古の昔から生い茂る巨大なシダ,深く根を張って枝や葉が一杯に水を蓄え“緑のダム”と呼ばれるブナが作り出すレインフォレストの森林浴。ラッセル滝,ホースシュー滝を眺めながら,ガイドから興味ある話を聞いた。ひたすら水を蓄えて森を守るブナと己の成長のための自己循環を行うユーカリの異なる生態についてである。すなわち,ブナの森に侵入してきたユーカリは,効率よく太陽の光を吸収するために高いところだけに枝葉をつける。そして周囲が燃えやすいような環境をつくる。もともとユーカリの樹皮は剥げやすく油を含んでいる。しかし内部は固くて少々の火事で樹木全体が燃え尽きることはない。強風によって樹木同士が擦れ合って山火事が起こると,ユーカリの周囲には燃えた木々の養分が残りさらなる成長が待っている。ユーカリの成長は早いが,木の内部はすかすかで建材としては不向きなので,ティッシュの原料として日本にも沢山輸出されている。この日のホテルの夕食のメニューは,パンプキンスープ,フィッシュ&チップス,ローストビーフでタスマニアの地ビールによく合った。夕食後,広いホテルの敷地内で野生動物の観察,そして北半球では見ることのない南十字星の見つけ方をガイドに教わった(タラリア・エステート泊)。
4. タラリア〜セントクレア湖〜タラリア
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写真 2 トレッキング コース
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セントクレア湖はオーストラリアで一番深い湖で,ダーウェント川の源流でもあり水はそのまま飲める。とにかくタスマニアは水と空気の美味しいところである。シンシアベイからボートに乗船して乳頭形状のアイダ山や周囲の景色を眺めながら,ハイキングスタート地点のエコーポイントで下船。溶岩が隆起して出来たオリンポス山の麓セントクレア湖の岸辺の原生林を歩く(写真 2)。途中,高い樹上に真白い花を咲かせるレザーウッド(その名の最高級品ブランドの蜂蜜で有名)を見かける。その他,湖畔でみかけた紫色のパープルバタフライアイリスという可憐な花,白い花のグレビレア,黄色のギニアフラワーなど日本では見られない固有種である。ランチを済ませナルシサス小屋まで歩く途中で,頭だけ隠したハリモグラを見かけた。
迎えのボートの時間まで余裕があったので,さらにオーバーランドトラック上のつり橋まで足を延ばした。ナルシサスベイからボートに乗船してシンシアベイで下船しホテルへ帰った。今宵の夕食のメニューはイカのフライ&サラダ,ポークBBQスペアリブ,ローストラム,チーズケーキ。よく冷えたタスマニア産のシャルドネが実にうまかった。
5. タラリア〜セントラルプラトー〜クレイドル山・セントクレア湖国立公園
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写真 3 パインレイクウォーク
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タスマニア島の地理上の中心地点測量記念碑(通称,タスマニアの臍)で記念写真を撮り,ついで世界遺産に指定されているセントラルプラトーに入った。尾瀬の湿地帯に似た地形で,木道を歩きながら(パインレイクウォーク),ここでしか見ることの出来ないクッションプラントやペンシルパイン,パイナップルグラス等々の珍しい固有植物を鑑賞した(写真 3)。キャプテン・クックがお茶の代わりに飲んだといわれるティーツリーが白い花を咲かせていた。
6. デロレイン〜クレイドル山・セントクレア湖国立公園
車窓から沢山のケシ畑を見かけた。タスマニアはモルヒネの生産量では世界一でシェア40%である。トロワナ野生動物公園に着き,美人飼育係の手助けを借りて,タスマニアデビルやウォンバットの赤ちゃんを触ったり抱っこした(写真 4,5)。その後聞きしに勝る壮絶なデビルの餌付けを見る。デビルはもっぱら死肉を食べるだけで人を襲うことはない。ただその食べ方が凄まじいので,初めてその様子を目撃した英人牧師によって,デビルという恐ろしげな名前がつけられてしまったという話である。また,全く人見知りをしないイースタングレイカンガルーとしばらく遊んだ後,元々子供達が見つけて秘密基地のように遊び場にしていたというマラクーパ鍾乳洞に入った。土蛍が天井一面まるで星座のように美しく発光するのは何とも神秘的であった。それから山道をひた走り,夕方クレイドルマウンテンロッジに着いた(写真 6)。夕食のメニューは,パンスニップのクリームスープ,うずらのグリル&サラダ,タスマニアサーモンのグリル,ラムチョップ,デザート。
ナイトツアーでウォンバットの巣を見に行った。帰途ポッサムやワラビー,パディメロン(小型のカンガルーの一種)を見かけた。
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写真 4 タスマニアデビルの赤ちゃん
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写真 5 ウォンバットの赤ちゃん
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写真 6 クレイドルマウンテンロッジ
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7. クレイドル山
午前ボードウォークで南極ブナ,スノウガムやブッシュペッパーなどの植物を観賞,ついでダブ湖周辺のハイキング。氷河岩,ボート小屋などを経て標高980m地点のビューポイントまで歩いた。生憎の曇りでクレイドル山の一部は雲に覆われていたが,それでも独特の荒々しい岩肌の威容に圧倒された(写真 7)。山の形は丁度阿蘇山群の根子岳に似ている。午後キングビリーパイントラックへ,樹齢1,500年のキングビリーパインを見上げた(写真 8)。
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写真 7 クレイドル山とダブ湖
(中台氏より提供)
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写真 8 キングビリーパイントラック
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8. シェフィールド〜ロス〜ピチェノ
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写真 9 シェフィールドの壁画
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早朝の散歩時,タスマニアデビルの子供がロッジのすぐ傍を歩いていた。まさに野生動物の楽天地。ホテルを出発し壁画で有名なシェフィールドに立ち寄った(写真 9)。ロスでは映画「魔女の宅急便」のモデルになったロスベーカリーで巨大なパン焼窯を見せてもらった。この日は山岳地帯から平地へさらに海岸沿いに約400kmの大移動。夕食後にペンギンツアー。ペンギンは12種類あり,ここのは少し小型のサザンオーシャンブルー(フェアリー)ペンギンで3,000羽程度生息している。親は早朝から沖へ魚を捕りに出かけ,夜になって餌を待つ子供のもとへと帰ってくる。しかし,親ペンギンの約1/3が猛禽類や鮫の犠牲になり,無事に雛が育つのは1/3程度で野生動物にとって厳しい現実である。
9. ピチェノ〜フレシネ国立公園〜ピチェノ
コールズベイ展望台からワイングラスベイ展望台までハイキング。ワイングラス状の美しい海岸の景色,フレシネ第一の景観に歓声をあげる(写真 10,11)。フレシネとはフランスの測量隊大尉の名前に由来しているが,因みにフレシネワインはタスマニアワインの代表でもある。日本の捕鯨を厳しく非難するオーストラリアも,その昔捕鯨に力を注いだ時期があって,湾内が解体された鯨の血で真っ赤に染まったという。ワイングラスベイという素敵な名称にも意外に暗いイメージもありそうだ。
ハネムーンビーチでランチ。灯台岬からカツオドリの島がみえる。ホエールウォッチのポイント。リチャードソンビーチではアボリジニの貝塚跡を見た。
タスマニア最後の夕食は“さよならパーティ”,添乗員の三浦さんからのタスマニア産白ワインとクレイフィッシュ(イセエビ)の差し入れで大いに盛り上がった(写真 12)。おまけに,ツアー参加の記念として全員にタスマニアのネーミング入りのベストを頂いた。こんな大サービスのツアーは初めて。
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写真 10 フレシネ国立公園 ワイングラスベイ
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写真 11 美しい海岸線
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写真 12 タスマニアワインで乾杯
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10. ホバート〜メルボルン〜成田
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図 2 最古の教会とリッチモンド橋
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翌日オーストラリア最古のカトリック教会や美しい橋(1823年以来現在まで使用されている)のあるリッチモンドを通過して,再びホバートに帰った(図 2)。ショップで買ったワイン,蜂蜜,チーズなどのお土産を持って,メルボルン経由成田へと思い出深い10日間のタスマニアの旅を無事終えた。
最後に,今回のツアーの最大の幸せは,気さくで博学なガイドと,痒い所に手が届くような気配りをみせてくれたグルメな添乗員に巡り会えたことであったと付記する。
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