=== 新春随筆 ===

オペラ公演の素晴らしさとハプニング
〜こんな事って有りなの?〜



中央区・城山支部
(高見馬場リハビリテーション病院)

          古庄 弘典
 18年ぶりに英国ロイヤル・オペラが,今回は世界的に有名な注目の2人のソプラノ歌手「アンナ・ネトレプコ」と「アンジェラ・ゲオルギュー」とともに来日すると聞けばどうしても行きたいと思い,今年の2月に発売されたチケットをあの手この手を駆使して,事前発売の情報を得て,手に入れることが出来ました(勿論,私の援助者が発売日にパソコンのインターネットに張り付いて苦労して購入してくれました)。「アントニオ・パッパーノ」音楽監督自ら指揮台に立ち,夢の競演・夢の舞台を期待していました。演目も2人のディーヴァにとって最も得意な,マスネ作曲「マノン」をネトレプコ,ヴェルディ作曲「椿姫」をゲオルギューが演じることになっていました。この2大ソプラノ歌手のオペラを生の舞台で視聴出来るチャンスは最初で最後と思っていました。

 しかし,オペラ公演つきものの主役の交代が事前に発表され,「椿姫」のヴィオレッタ役を演じる予定だったゲオルギューが愛娘の困難な手術に立ち会うため日本公演に参加できなくなり,代わってアルバニア人ソプラノ歌手の「エルモネラ・ヤオ」が演じることになったとインターネットで知ることになりました。代役のヤオは2008年のロイヤル・オペラの「椿姫」公演で,病気で降板したネトレプコの代役として急遽出演し喝采を浴び,その後ロイヤル・オペラに招かれることになり,今年2010年の「椿姫」公演で正式にヴィオレッタ役を演じ大変好評だったと紹介されていました。

 今回の2つの公演「マノン」と「椿姫」はそれぞれ4回行われる予定で,私はいずれも日本での初日公演を聴きました。9月11日午後3時から東京文化会館で開演された「マノン」の初日公演は期待通りで,ネトレプコの「マノン」は素晴らしく,ロイヤル・オペラの演奏もまた絶品でした。パッパーノの指揮ぶりもよく見え,躍動感に溢れていました。終演後のカーテンコールでは素早く客席を立ち,前に進んでオケピット(オーケストラピットの略)の所まで行き,真近でネトレプコを見ることができました。もう忘れられない日になりました。

〜こんな事って有りなの?
 ハプニングの起こった2日目〜

 翌日9月12日午後3時から今度は神奈川県民ホールでの公演でした。歌劇ファンなら誰でも全体をイメージできるポピュラーな「椿姫」の初日でした。お目当てだったゲオルギューの代役として,ロイヤル・オペラが選んだヤオに期待したものです。こちらも日本での初日公演で中央席付近には音楽評論家・専門家であろう面々もいたようです。1幕が始まりました。最初の聴き所,アルフレードとヴィオレッタの歌う「乾杯の歌」,ヤオの声は何となく金属的な音色で高音も伸びがあるように感じました。華やかな声でした。そして無事第1幕が終了。直ちにカーテンコールが行われ,ヴィオレッタ役を演じたヤオが出てきました。その時は気付かなかったのですが,2幕が始まろうとして着席して待つ観客の前にロイヤル・オペラのディレクターが通訳とともに出てきました。何事?と思っていたら,ヴィオレッタ役のヤオにアレルギー症状が起こり,声が出なくなったとのお知らせでした。これ以後の公演は困難になり,そこで『幸いなことにソプラノ歌手の「アイリーン・ペレス」が同行しているので,2幕からは米国出身のペレスがヴィオレッタ役を演じます』とのお知らせでした。代役の代役が登場するなんて,何が幸いか!!と思いましたが,2幕開演です。2幕にも聴き所が多く,どうなることかと思っていました。次第に,ジョルジョ・ジェルモン役のキーンリサイド(有名なバリトン歌手)との釣り合いが取れず,ヴィオレッタ役のペレスの歌唱がかすんでしまっているのが私にもはっきり分りました。力不足が明らかでした。2幕が終わり,休憩時ペレスの略歴を印刷したモノクロコピーがフロアで配られており,貰ってきました。紹介ではベルリン国立,ウィーン国立,スカラ座でもヴィオレッタ役を演じたと書いてありました。休憩が終わり,席についてそろそろ3幕の開演案内がありました。ところが,私の席の並びに座っていた男性が戻っていません。そこで周りを見回すと空席になったところがいくつかありました。その時,「この代役では,3幕の公演を聴いても駄目だ!」と思って帰られた方がいるのだと気付きました。3幕は盛り上がらないまま終演。カーテンコールもありましたが,昨日のネトレプコの時には終演と同時に,観客がオケピット近くに殺到したのに,何と今日は誰も前に移動する人がいませんでした。しかも,さっさと帰りを急ぐ人が多く,形式的なカーテンコールで幕になりました。

 当初来日予定のゲオルギューから代役のヤオで公演が始まり,初日公演の1幕終了時点で,その代役の代役ペレスが登場するという,予想だにしなかったハプニングを体験してしまいました。途中で帰られた方はきっとオペラに精通しており,惨めな終末を予想されていたのでしょう。それにしても観衆の大喝采もないのに,第1幕の終了後,ヴィオレッタ役を演じたヤオがカーテンコールに出てきたことは,1幕で降りることが決まり,やむを得ない登場だったことも理解できました。

 オペラ公演,クラシック音楽会のドタキャンの話は聞いていましたが,ネトレプコの初日公演のすばらしかったこととは正反対の2日目の結末,演目途中で代役の代役が登場するなんて,何という経験だったのだろうと残念に思い,こんな事って有りなの?という体験は忘れられません。

 追記:「椿姫」2回目の公演はヤオが最後まで演じきった。3回目の公演は初日と同じく,ヤオが途中降板しペレスが途中登場した。この公演は大変なブーイングだった。4回目の公演は何と,あのネトレプコがヴィレッタ役を演じたそうです。4回目のチケットはプラチナチケットに変身,この公演を聴ける幸運を味わった方もいたとのことです。




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