鹿市医郷壇

兼題「欠伸(あくっ)」


(373) 永徳 天真 選




 武岡 志郎

保育器ん小け欠伸に切ね胸
(保育器ん ちんけ欠伸に せっね胸)

(唱)添寝をすい日が待っ通しこっ
(唱)(せねをすい日が まっどおしこっ)

 出産の時は、 無事に元気な赤ちゃんをと祈りますが、 出産予定日より早く生まれた未熟児の場合は、 心配も多い筈です。
 そんな赤ちゃんが保育器の中で、 手足を動かしたり、 たまに見せる小さな欠伸など、 その懸命に生きる姿には心が熱くなってきます。観察の視点がよく、 その心情もよく詠み込まれています。




清滝支部 鮫島爺児医

大て欠伸蠅が飛っ込んで笑われっ
(ふて欠伸 へがとっくんで わるわれっ)

(唱)様あ無か言はこん事じゃいが
(唱)(ざまあなかちゅは こんこっじゃいが)

 疲れたり眠たい時に出る欠伸ですが、 時と場所によっては、 欠伸を噛み殺したり、 口元に手をやって欠伸を人に見せないようにするのがマナーです。
 しかしこの句の場合は、 人前で堂々と大きな欠伸をして、 蠅が飛び込んできたという情け無い状況です。戒めも込められていますが、 ユーモアたっぷりです。




 城山古狸庵

生欠伸ぶ噛ん殺し聞っ長げ説教
(なまあくぶ かんころしきっ なげせっきょ)

(唱)話しゃ短こち説教すごちゃっ
(唱)(はなしゃみしこち せっきょすごちゃっ)

 じっと同じ姿勢のままで聞く長時間の講習会や講演会などで、 話がつまらなかったりすると欠伸が出そうになったことを、 皆さん体験されていると思います。
 説教にも僧侶の説教と忠告や小言を言う説教とがありますが、 いずれにしてもその長い説教にうんざりしながらも、 耐えている様子が目に見えるようです。


 五客一席 武岡 志郎

母親ん小言欠伸のついで返事ずばしっ
(かかんぐぜ 欠伸のついで へずばしっ)

(唱)欠伸びゃ何かち尚も叱られっ
(唱)(あくびゃないかち なおもがられっ)


 五客二席 城山古狸庵

大て欠伸喉ちんこずい見えっおっ
(ふて欠伸 喉ちんこずい みえっおっ)

(唱)滅多て見らるい物でな無かが
(唱)(めってみらるい もんでななかが)


 五客三席 清滝支部 鮫島爺児医

国会の欠伸びゃテレビい大と映っ
(国会の あくびゃテレビい ふとうつっ)

(唱)そん次ぎなればけ眠ったろかい
(唱)(そんつぎなれば けねったろかい)


 五客四席 紫南支部 紫原ぢごろ

出ちゃならん欠伸ぶこらえっ百面相
(でちゃならん あくぶこらえっ ひゃくめんそ)

(唱)二度と見られん面白て顔じゃ
(唱)(二度とみられん おもしてつらじゃ)


 五客五席 伊敷支部 矢上 垂穗

ずんだれた決起集会い出い欠伸
(ずんだれた けっきしゅうかい でい欠伸)

(唱)エイエイオーち最後は締めっ
(唱)(エイエイオーち 最後はしめっ)



   秀  逸

清滝支部 鮫島爺児医

欠伸ぶ見っ連られ連られっ我もしっ
(あくぶみっ つられつられっ わがもしっ)

挨拶の途中で欠伸びゃ御無礼様
(あいさつの 途中であくびゃ ごぶれさあ)


紫南支部 紫原ぢごろ

月曜日欠伸ば連発ち目はトロッ
(月曜日 あくばれんぱち 目はトロッ)

大欠伸団扇で隠きっ作い笑れ
(大欠伸 うっばでかきっ つくいわれ)


 霧島 木林

セールスん長電話いな出い欠伸
(セールスん 長電話いな でい欠伸)

また欠伸ないごてこげん出いもんか
(また欠伸 ないごてこげん でいもんか)



 武岡 志郎

また二人欠伸ぶし出けた長げ祝辞
(またふたい あくぶしでけた なげ祝辞)


 作句教室

 今月の題「欠伸(あくっ)」も、 身近な素材でした。過去の秀句をいくつか紹介しますので、 作品をよく味わってほしいです。

税務署ち聞たや欠伸がひっ止まっ
(税務署ち きたや欠伸が ひっとまっ)
                      古藤 雪尾


錨ゆ打っ釣れん夜焚っの疲れ欠伸
(いかゆうっ つれんよだっの だれ欠伸)
                      実方 天声


噛ん殺れた欠伸ば胃の腑でうっ溜まっ
(かんこれた あくば胃のふで うったまっ)
                      上田  格


二日酔ん欠伸びゃ腐った匂がしっ
(ふっかえん あくびゃねまった にえがしっ)
                      弓場 正己


大て欠伸ぶ書物の中い畳ん込っ
(ふてあくぶ しょもっの中い たたんくっ)
                      上山 天洲


厚化粧い干割れを残けた大て欠伸
(あっげしょい ひわれをのけた ふて欠伸)
                      入来 創雲


ぐらしどん欠伸ぶすい子を塾き追やっ
(ぐらしどん あくぶすい子を じゅきうやっ)
                      小宮路〆鯖


CTで聴診器どま欠伸ぶしっ
(CTで 聴診器どま あくぶしっ)
                      植村聴診器


手も添えじ生欠伸ぶすい妻けけなっ
(手もそえじ なまあくぶすい かけけなっ)
                      塚田 黒柱



 薩摩郷句鑑賞 41


火の車め共同募金ぬ叱いたくっ
(ひのくいめ きょうど募金ぬ がいたくっ)
                     中村 雲海

 十月の声を聞くと、 街角で共同募金をしているのを見かけるが、 胸に赤い羽根をつけていないと、 なんだか気がとがめるようで、 素通りできないお人好しもいれば、 見向きもしない人もいて、 まさに世はさまざまである。
 この句の場合、 多分、 各戸いくらずつというような、 割り当てのような募金に対して、 遣りくりに四苦八苦しているのに、 募金どころじゃないと怒ったのである。


人ん妻け渡てっ叱られた親子リレ
(人んかけ わてっがられた 親子リレ)
                     塚田 黒柱

 児童生徒の多い大規模校では、 ほとんど外部種目はないけれども、 農漁村では、 校区あげての運動会が開かれているのではあるまいか。特に、 地区対抗リレーや親子リレーは沸く種目である。その親子リレーに、 久しぶりに走ってへとへとになった父親が、 間違えてよその奥さんにバドンを渡してしまったのである。子どもからさんざん叱られたことであろう。
 ※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋

薩 摩 郷 句 募 集

◎12 号
題 吟 「 後悔(くけ)」
締 切 平成22年11月5日(金)
◎新年号
題 吟 「 化粧(けしょ)」
締 切 平成22年12月6日(月)
◇選 者 永徳 天真
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
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