随筆・その他
多 職 種 連 携 の 時 代
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リレー随筆を廻していいかと久しぶりに会った山田誠一郎先生(西区・伊敷支部 伊敷台内科)に訊かれ,高校の先輩の依頼を断るわけにもいかず即答で引き受けてしまってから困ってしまいました。文章を書くことは少しも苦ではありません。書くこともいっぱいあって話題には苦労しないのですが,どの話題がいいのか絞れないのです。
すぐに浮かんだのは,2002年7月から当法人ホームページ(http://www.meikikai.com)にほぼ毎日書いている「院長のつぶやき」というブログならぬ公開日記のことです。しかし,この「院長のつぶやき」は8年間もほぼ毎日更新していることもあって思いのほか知られているから今更の感があります。やめることにしました。
次に浮かんだのは,今電子書籍で話題になっているiPad(アイパッド)を日本発売初日(今年5月28日)に楽々手に入れることができたという自慢です。予約が始まった日(今年5月10日)に販売店から「先生,もちろんiPad予約ですよね。どのタイプにしますか。」と連絡をもらい,発売初日,50台程度しか入荷しなかったiPadを苦労もせずに手に入れることができました。しかし,単なる自慢話ではつまらないから,iPadがとても威力を発揮することを話題の中核にしてiPadは革新的なデバイスでいろんな分野において活用されていくことだろう,iPad最高という文章を書こうと思いました。そのことをちょっとだけ書かせていただくとこのようになります。読者の先生方,クリニックを離れて訪問診療をおこなっている場面を想定してみてください。そこで急に往診依頼があったとしたら,先生は患者さんの(紙)カルテを取りにわざわざクリニックに帰られるでしょうか。あるいは職員に頼んで往診先までカルテを持ってこさせますか。それともカルテなしで往診を済ませますか。私はiPadを持っていますので往診先からソフトバンクの電話回線を使って電子カルテサーバーにアクセスしてカルテを閲覧します。必要に応じて,血液検査データを参照することもできます。また,その場から処方を発行することも可能です。この一連の作業は意外にも簡単で時間がかかりません。閲覧だけなら1分です。現時点ではカルテ書きと処方せん発行には少し手間がかかりますから,私の場合は要点をメモ書きしてクリニックに帰ってからパソコンに向かってまとめる作業をします。しかし,これ以上書いても,電子カルテに興味のない先生方には私の興奮は理解してもらえないでしょう。ましてや,当院にはMacintosh(マック)が30台もあって,それらが互いに繋がっていてファイルサーバーにアクセスすれば電子化されたさまざまな書類をいつでもだれでも閲覧編集できます。また,ウェブサーバーやメールサーバーも私が中心になって法人独自の運営をしていますと自画自賛してもこの深意を分かってもらえないでしょう。
そこで,私が毎週月曜の午後におこなっている当院の院長回診のことを書いてリレー随筆の責任を果たそうと思います。早速その回診ですが,およそ3年前から多職種参加型としました。多職種参加型とは医師以外の職種の人,当院では医師2人に加えて病棟看護師,訪問診療も担当する外来看護師,理学療法士,管理栄養士,診療放射線技師,地域連携室長,医事課課長らが参加するものです。当院は有床診療所ですから,たかだか19人の入院患者さんを2人の常勤医で分担するので仕事量としてはしれています。仕事の能率面から言うと,院長回診とかしないで,それぞれの主治医が責任を持って診療すればいいはずです。ましてや医師以外の看護師,理学療法士,栄養士など参加させた回診をする意味があるのかという声が聞こえてきそうです。しかし,多職種参加の回診には,各自が専門的な立場からの小さな意見を言ってくれるという有益な面があります。例えば,急性期病院から転院された患者さんが退院することになった場合,そのまま自宅に帰って生活できるか問題になります。介護サービスを利用して住宅改修する必要はないか,もっとリハビリをするために介護老人保健施設に入所した方がいいのではないかと検討する必要があります。そこで理学療法士が身体機能や生活機能を評価し主治医に伝えます。また,自宅を見学することで次の回診までに住宅改修の必要性についても教えてくれます。ある老人が食事を食べない状態が続いたとします。すると,栄養士がこの老人の食事の様子を十分に観察し,後日何かしらの対応を提案してくれます。このように医師による医療だけでは退院後の生活を維持できないので,さらにどのようにすればいいかを各職種の範囲でカバーしてくれます。とくに生活を支えるための介護サービスについての助言は心強いものがあります。在宅療養支援診療所の医師にとって,病気を治すだけでなく患者さんとその家族の生活が豊かであるように適切な介護サービスを提案できることは重要ですから地域連携室長の働きは要になります。病棟患者さんのリアルタイムな情報を多職種参加の回診で共有する意義は充分にあると思っています。
すでに時代は多職種連携の時代だと思います。それは介護認定審査会の委員の構成を見ても分かります。5つの職種の代表者の集まった介護認定審査会は,それぞれが専門の立場から意見を述べ合い介護認定をおこないます。5つの目線で討論した方がよりよい答えが出るからです。このように多職種が連携することによるメリットは,医療と介護だけに限ったことではありません。近年,医学部が他学部と連携したり,企業と連携したりして,新しい研究や製品開発するケースをよく耳にします。産学官連携とか,産学官コラボとかいう言葉も同じことを表しています。昨今,チームワークという言葉もよく聞きます。チームワークも多職種連携もほぼ同じで,いい雰囲気で仲良く仕事をするということばかりではダメで,各職種一人一人がその能力を最大限に出して大きな成果を得ることが目標です。いずれにせよ,多職種連携は今の時代が必要とする仕事スタイルではないでしょうか。(因みにこの文章はiPadで書き,そのままiPadから鹿児島市医師会へWord原稿として電子メールで送りました。)
| 次号は、中村レディースクリニックの中村安俊先生のご執筆です。(編集委員会) |

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