鹿市医郷壇

兼題「貝掘い(けほい)」


(368) 永徳 天真 選




錦江支部 城山古狸庵

貝掘い場で尻が突っ当た今ん女房
(貝掘いばで しいがつっごた 今んかか)

(唱)誠て縁ちゅは不思議なもんじゃ
(唱)(まこてえんちゅは ふしっなもんじゃ)

 鹿児島市の海岸沿いはほとんどが埋め立てられて、 かろうじて浜辺が残っているのは、 磯と喜入の海岸ぐらいでしょう。
 昔は潮干狩りも、 近くの浜に繰り出して賑わい、 芋を洗うような浜では尻がぶつかることもあって、 それが縁で結婚された物語のようです。懐かしい貝掘りを思い出させるほのぼのとした句です。




上町支部 吉野なでしこ

長ご座っ貝掘いの後にゃサロンパス
(なごすわっ 貝掘いのあとにゃ サロンパス)

(唱)あ痛たあ痛たち二三日ちゃ言っ
(唱)(あいたあいたち にさんにちゃゆっ)

 貝掘りはアベックや職場などのグループもいますが、 やはり家族連れが主流です。なんといっても今夜のおかずの調達ですから、 子供たちはもちろん爺ちゃん婆ちゃんも一緒の大人たちも張り切ります。時間の経つのも忘れて夢中になった貝掘りから家に帰ると、 体の節節が痛くなるものです。一日お疲れ様でした。




清滝支部 鮫島爺児医

貝掘い行っ空は恥のし買て帰っ
(貝掘いいっ すだはげんのし こてもどっ)

(唱)塩抜きゃしたち隣い持っ行っ
(唱)(しおぬきゃしたち とないもっじっ)

 車には移植鏝やポリバケツ等の貝掘り道具を積み込み、 勇んで行ったものの、「居(お)いもんじゃ無(な)かった」「場所が悪(わ)いかった」と、 成果は無かったようです。
 おそらく家を出る時近所の人と会い、「貝掘(けほ)い行(い)たっきもんで」と言ったばかりに、 格好がつかないので、 買う羽目になったようです。


 五客一席 紫南支部 紫原ぢごろ

貝掘ゆした懐かし浜はビルんまっ
(けほゆした 懐かし浜は ビルんまっ)

(唱)自然破壊は加速くしっいっ
(唱)(自然破壊は かそくしっいっ)


 五客二席 上町支部 吉野なでしこ

籠一杯貝掘いをしたち日い焼けっ
(かごいっぺ 貝掘いをしたち ひいやけっ)

(唱)焼酎を飲だ如っ顔どま真っ赤
(唱)(しょちゅをぬだごっ つらどままっか)


 五客三席 錦江支部 城山古狸庵

一昨日播た浅蜊は一向見せん顔つら
(おとてめた あさりはいっこ みせんつら)

(唱)つうつ沖せえ逃げたたろかい
(唱)(つうつおっせえ 逃げたたろかい)


 五客四席 清滝支部 鮫島爺児医

貝掘い場も邪魔な廃棄物が増えっきっ
(貝掘いばも 邪魔なごもぞが 増えっきっ)

(唱)塵捨て場じゃ無言て泣ちょい海
(唱)(ごんすてばじゃねちゅて ねちょいうん)


 五客五席 伊敷支部 矢上 垂穗

貝掘いけも行っださじ最早子も二十歳
(貝掘いけも いっださじもへ 子もはたっ)

(唱)たまにゃ潮風当たっみやんせ
(唱)(たまにゃしおかぜ 当たっみやんせ)


   秀  逸


錦江支部 城山古狸庵

貝掘い行てスーパん貝をば買て帰っ
(貝掘いいて スーパんけをば こてもどっ)

貝掘い場にゃ人ん数程だ貝は居らじ
(貝掘いばにゃ 人んかしほだ けはおらじ)

貝掘いよかこたほがましちふゆしかか
(貝掘いよか こたほがましち ふゆしかか)


清滝支部 鮫島爺児医

貝掘いでな手よっか足が頼いなっ
(貝掘いでな 手よっか足が たよいなっ)

近頃は貝掘いも知らん子供が増えっ
(近頃は 貝掘いもしらん こがふえっ)

貝掘い日い合わせっアサリ船で撒っ
(貝掘いびい あわせっアサリ 船でめっ)


紫南支部 紫原ぢごろ

貝掘い連れちっと大てとを見せたくっ
(貝掘いづれ ちっとふてとを みせたくっ)

貝掘い行た晩なそら美味め貝の汁
(貝掘いいた ばんなそらうめ けのおっけ)


伊敷支部 谷山五郎猫

貝掘ゆしっ腰が痛とない歳しけなっ
(貝掘ゆしっ 腰がいとない としけなっ)

貝掘ゆした潟も今でな産業団地ちなっ
(貝掘ゆした がたも今でな だんちなっ)


上町支部 吉野なでしこ

砂浜で貝掘いをすっち励い方
(砂浜で 貝掘いをすっち はまいかた)


 作句教室
 今月も引き続き三條風雲児先生が書かれました「渋柿」の巻頭言の一つを紹介します。
薩摩郷句の笑い
 薩摩郷句の条件の一つに、「郷句味」がなければならないということが挙げられているが、 郷句味と言っても、 穿(うが)ち、 諷刺や皮肉、 ユーモアなどいろんな要素があるけれども、 私はもっと滑稽味のあるユーモラスな句が増えてよいのではないかと思う。
 笑いと言っても、 すぐ下品、 卑猥な笑いを考えてはならないし、 また人を嘲笑したり侮蔑して笑うようなものは慎しむべきであろう。昔の薩摩狂句に、 そんな作品が多かったので、 薩摩狂句と言えば、 下ネタで笑わせるものとか、 人を笑いものにして喜ぶものだと思っている人々が今でもあるようである。
 いつ、 どこでも、 誰の前でも発表できて、 聞いた人が心の底から笑えるような、 健康で、 さわやかな笑いこそ、 我々に求めるべき笑いであろう。


 薩摩郷句鑑賞 36
母かかん日は妻かかを横座い奉っ
(かかん日は かかを横座い 奉っ)

矢野 猫柳

 このごろ囲炉裏を使っている家はめったにないが、 囲炉裏の正面が横座で、 主人が座る場所であった。横座から見て内側の方が茶の座または内座(うっざ)と言って、 主婦の座る場所。横座から外側、 つまり玄関側の方が客座と言った。
 ちょうど今日は母の日だというので、 かねては一家の主人が座る横座に、 奥さんを座らせたというわけである。「奉っ」などという誇張した表現で、 仲の良い、 ユーモラスな夫婦をうまく描き出している。
 ※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋


薩 摩 郷 句 募 集

◎7 号
題 吟 「 周囲(ぐるい)」
締 切 平成22年6月7日(月)
◎8 号
題 吟 「 汗(あせ)」
締 切 平成22年7月5日(月)
◇選 者 永徳 天真
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
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ホームページ:http://www.city.kagoshima.med.or.jp/


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