鹿市医郷壇

兼題「嬉し(うれし)」


(366) 永徳 天真 選




清滝支部 鮫島爺児医

初孫ん名前を考げ居い嬉し祖父
(はっまごん なをかんげちょい 嬉しじい)

(唱)筆でふとぶと名をば紙み書っ
(唱)(筆でふとぶと なをばかみけっ)

 新しい命の誕生である赤ん坊は、どの子も皆かわいいものです。それが初孫ともなると、血筋が続くという喜びもあり、百倍ものかわいさでしょう。
 命名を頼まれて、名付け親としての責任は重大ですが、姓名判断の本を片手に、一生懸命思案している様子が、目に浮かんでくるほのぼのとした句です。




紫南支部 紫原ぢごろ

健康が何よか嬉し家内中しっ
(健康が ないよか嬉し けねじゅしっ)

(唱)今日も見らるい笑顔い感謝
(唱)(今日もみらるい 笑顔い感謝)

 見舞いで病院に行くと、患者の多さに驚かされます。病気も様々ですが、医療に携わる人の手助けをもらいながら、患者は、健康になりたいという一心で、日々病気との戦いだろうと思います。
 病気になって改めて気付かされるのも、健康の有難さですが、健康という重さを中七で十分表現されています。




上町支部 吉野なでしこ

来っ嬉し帰っ嬉しか孫ん守
(きっ嬉し もどっ嬉しか 孫んもい)

(唱)やっと帰れば溜息どん付っ
(唱)(やっともどれば ういっどんちっ)

 ちょろちょろと動き回るかわいい盛りのお孫さんでしょう。「よう来たねえ」と満面の笑みで出迎えましたが、片時も目が離せない孫に、けがをさせないように注意しながらの遊び相手も、長時間になると、体力的、精神的にも疲れてきて、帰る頃には一仕事終えた気分です。
 表現のリズムも良い素直な実感句です。


 五客一席 紫南支部 紫原ぢごろ

気掛かいの検査がパスで嬉しこっ
(きがかいの 検査がパスで 嬉しこっ)

(唱)帰れば直き妻い報告っ
(唱)(もどればいっき かかいほうこっ)


 五客二席 伊敷支部 谷山五郎猫

少とでん減っと嬉しか体重計の目盛
(ちっとでん へっと嬉しか ちきいのめ)

(唱)間食を止めっ正解じゃった
(唱)(はざぐをやめっ 正解じゃった)


 五客三席 清滝支部 鮫島爺児医

サクラサク嬉し通知で病気も治っ
(サクラサク 嬉し通知で びょもなおっ)

(唱)負けちゃならんち漲い力
(唱)(まけちゃならんち みなぎい力)


 五客四席 錦江支部 城山古狸庵

嬉しどん医大い合格れば金の心配
(嬉しどん いだいうかれば ぜんのせわ)

(唱)子ん為親は精一杯働れっ
(唱)(子ん為親は せっぺはたれっ)


 五客五席 伊敷支部 矢上 垂穗

少額でん子供手当は嬉しこっ
(ちっとでん こどんてあては 嬉しこっ)

(唱)貰ろせかすれば贅沢か言わん
(唱)(もろせかすれば ぜいたかゆわん)


   秀  逸

清滝支部 鮫島爺児医

五番目い嬉し男ん子い恵っ
(五番目い 嬉し男ん 子いのさっ)

這えば立て立てば歩めち嬉し母親
(はえば立て 立てばあゆめち 嬉しかか)

宇宙船嬉し便たよいが日に課っけなっ
(宇宙船嬉し便たよいが日に課っけなっ)


錦江支部 城山古狸庵

嬉しとに片頬も笑るもせん横ご
(嬉しとに かたふもわるも せんよんご)

就職祝へ貰ろっ嬉しか一張羅
(しゅしょっゆへ もろっ嬉しか いっちゃびら)

嬉し泣っ悲し泣くすいメロドラマ
(嬉しなっ 悲しなくすい メロドラマ)


上町支部 吉野なでしこ

カルタ取い孫が勝ったち嬉し祖母
(カルタとい 孫が勝ったち 嬉しばば)

里帰い嬉し涙ん祖父と祖母
(さともどい 嬉しなんだん じいとばば)


紫南支部 紫原ぢごろ

親も子も嬉し笑顔で入学式
(親も子も 嬉し笑顔で にゅがっしっ)

嬉しどん子供手当ん付けは子い
(嬉しどん こどんてあてん つけは子い)


伊敷支部 谷山五郎猫

親ん眼が嬉し恥ねん武者姿
(親んめが 嬉しげんねん むしゃすがた)


 作句教室

 今月も三條風雲児先生が書かれた、「渋柿」の巻頭言の一つを紹介します。

作者の批判を加える

  麦刈いの畑い届じた三時ん茶
  (むっかいの 畑いとじた 三時ん茶)

  緋鯉やら真鯉が泳っ子供の日
  (ひごいやら まごいがおよっ こどんの日)

 十七音字のリズムにのっていて、言わんとすることも良く分かるし、表記にも間違いはない。だから一見問題はない作品のように見える。
 しかし、これは単なる説明・報告に過ぎない作品である。いわゆる郷句味のない作品というわけである。郷句は一つの情景や様子が描かれていれば良いというものではなく、そこに作者の批判が、ユーモアとか、穿うがち、皮肉や諷刺などという形で表れていなければならない。
 たとえば次のようにすれば、皮肉味や人情味が加えられた作品になるだろう。

  麦刈いも茶飲ん加勢じゃろ街の婿
  (むっかいも ちゃのんかせじゃろ まっのむこ)

  孫可愛せ竿が折るいめ鯉幟
  (まごむぞせ さおがおるいめ こいのぼい)

 薩摩郷句鑑賞 34

知事さあも知っちょいどんな友達の如っ
(知事さあも しっちょいどんな どしのごっ)
              酒匂 えみ

 「万年暦」(まんねんごよん、略してまんにょん)と言えば、「物事に詳しい人、何でもよく知っている人」である。
 ところが「知っちょいどん」というのは、「何でも知ったかぶりをする人」を揶揄した呼び方である。知事をまるで友達のように言って、人を苦笑させている。

五合灸浮気ん亭主をおらばせっ
(ごんごえつ 浮気んととを おらばせっ)
            児玉紫雲児

 火災や水害防止から、事あれば消火活動や、人命救助等々、消防署の仕事は大へんであるが、今日はその消防記念日。
 火災の原因では、「火遊び」というのが少なくないけれども、この句は、もう一つの火遊びである。お灸を据えてくれと頼まれた奥さんが、これ幸いと、小指の先のようなモグサを置いて火をつけたのであろう。「五合灸(ごんごえつ)」というのは、大きな灸のことである。
 ※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋




薩 摩 郷 句 募 集

◎5 号
題 吟 「 貝掘い(けほい)」
締 切 平成22年4月5日(月)
◎6 号
題 吟 「 雑巾(ざふっ)」
締 切 平成22年5月6日(木)
◇選 者 永徳 天真
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:ihou@city.kagoshima.med.or.jp
ホームページ:http://www.city.kagoshima.med.or.jp/


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