随筆・その他

リレー随筆

「オーディオ雑記」

西区・伊敷支部
(医療法人寿幸会宮田医院)   宮田 正幸
 オーディオが趣味です。興味のない人にオーディオといっても正確にニュアンスが伝わらないかもしれません。音楽を聴くことが趣味ではありますが、より良い音で聴くために日夜努力し、悩み、苦しみ、楽しむ趣味です。音楽鑑賞だけならそれなりのセットを買ってくればそれで終わりですが、オーディオはそこからが始まりです。私の場合は、CDはほとんど聴かず、昔ながらのLPレコードを中心に聴いています。新譜は滅多に出ませんが、ほとんどキズ無しの程度のいい中古LPをインターネットで買うことができるので不便は感じません。レコードプレーヤーを持っていても針が手に入らないので放置しているという方がいらっしゃいますが、ほとんどの針は交換可能です。またカートリッジ(針がついている本体)も毎年数点は新製品が出ていますし、レコードプレーヤーも結構新製品が出ていて、こんなに新製品を出して買う人がいるのだろうか、と心配になる位です。ちなみに現在日本で購入できる、カートリッジは230モデル、レコードプレーヤーは110モデル程あります。
 同じスピーカー、アンプ、CDプレーヤーを使用していても、使う環境が違えば決して同じ音は出ません。まず部屋の大きさや壁や床の材質、部屋に何が置いてあるかでも低音の出方、残響時間が違います。部屋を縦長に使うか横長に使うかでも違います。縦長で使うことが多いと思いますが、部屋と音の関係を研究している石井伸一郎氏が横長に使う(スピーカーの間隔は拡がり、スピーカーと聴取位置は近づく)方が、低音が豊かになり音が良くなることが多いというデータを出しています。スピーカー、アンプ、CDプレーヤーなどを設置する台でも変化します。材質も木、鉄、石、カーボンさらには磁力で浮かすものもあります。興味がない人は、「うそ〜」と思うかもしれませんが、電源ケーブルやスピーカーケーブルなど各種ケーブル(どれも1mペアで数万円から数10万円するものまであります!)や電源コンセントなどでも音が変わります。また振動を制御するための制振グッズも多種多様なものが製品化されており、これがまた使い方によっては、劇的な効果をもたらします。下に敷いたり、上にのせたり、貼り付けたりします。私も各種使用していますが、特に気に入っているのが制振チップです。直径5mm、厚さ2mm程度の円盤状のもので、材質は陶器、水晶、金属などがあります。裏面に両面テープがついていてどこにでも貼れます。余計な振動を減らしたり振動を整えたりすることにより、音がクリアーになり低音が出やすくなります。「そんな馬鹿な〜」という声が聞こえてきそうですが、信じるものは救われます。これがマニアの世界です。スピーカー、アンプ、プレーヤーは言うに及ばず、各種ケーブル、コンセントさらには窓や壁、天井にまで貼っています。どこに何個どのような間隔で貼ればより効果が大きいかは、試行錯誤を繰り返すしかありませんが、効果はまちがいなくあります。これにより、スピーカーが原因と思われた高域の耳障りな音が取れ、低音が豊かになってきました。部屋の壁や天井に貼ることで、響きも豊かになりました。新しくオーディオルームを作ったのと同じ効果だ、対値段効果は数百倍だ、と一人で悦に入っています。これぞ趣味の世界です。私は、特に制振ということにこだわっていますが、どこにこだわるかは、人によりさまざまです。ケーブルにこだわる人もいます。スピーカー本体よりスピーカーケーブルにお金をかけている人や、種々ケーブルを何本も持っていて交換して楽しむ人もいます。実際、アンプなどを買い換えるより音の変化が出ることもあります。高い製品を使えば良い音がするというわけではありません。組み合わせ、相性の問題もあります。相性が悪いと嫌な音が強調されることがあるからです。
 オーディオを趣味としている限り“今のこの音で満足だ”と思うことは一時的にはありますが、しばらくするとまたどこかが気になり始め、さらに良い音を求めて何かしたくなります。スピーカーの間隔や角度を変えたり、ケーブルを変えたり、プレーヤーをいじったりあれやこれや試してみます。資金に余裕があれば、上位機種の購入も考慮します。しかし、いじることで以前より悪くなることも多々あり過去に何度も失敗しています。そこが面白いといえば面白いのですが。
 オーディオを趣味とする人のほとんどは、原音再生をイメージしながらも最終的には自分好みの音を追求しているのだと思います。小音量で聴く人、大音量で聴く人、スピーカーの近くで聴く人、スピーカーから離れて聴く人、いろいろな聴き方があり、音楽のジャンルによっても理想とする音は違います。音楽評論家の菅野沖彦氏が、オーディオ演奏家論というのを提唱していますが、あたかも演奏家が楽器を演奏するようにオーディオシステムから自分の理想とする音を出してもいいのではないか、ガチガチに原音再生を目指すのではなく、自由な感性で自分好みの音を出してもいいのではないかと言っています。実際の演奏でも、同じ楽曲であっても演奏者によって表現が違うのですから。私の場合、スピーカーの後方数mのところステージが展開し、楽器の位置がわかり、音離れの良い締まった低音が出るのを目標にしています。さらにコンサートホールのような残響が得られれば文句はありませんが、現在の部屋のままではなかなか難しく今後の課題です。
 「オーディオにそれだけお金をかけるより、実際の演奏会に何度も行った方がいいのではないか」と言われることがありますが、そんなことはありません。そんなめったやたらに名演奏会があるわけではありません。私の好みの演奏は1950年代から1960年代のクラシックやジャズなので、ほとんどの演奏家は亡くなっています。レコードだとその時代の極めつけの名演奏を自宅で聴くことができるのです。録音によっては、実際のライブより生々しく聴くことができます。演奏会に行くのではなく、自宅で演奏会を開くようなものです。なんと贅沢なことでしょう。
 近年CDの売り上げが減り音楽業界が悲鳴を上げていますが、そのCDの存続自体が危ぶまれています。今や音楽をダウンロードしてパソコンやiPodなどで聴く若者が増えてきていますが、オーディオ愛好家の間でさえ最近はCDプレーヤーを使わずに高音質な音楽を楽しむ人が増えてきました。世界でも有数のオーディオ総合メーカーであるリン・プロダクツがDS(デジタルストリーミング)システムを積極的に推し進めています。これは、音楽配信会社から楽曲をダウンロードしたり、CDの音楽情報を一旦パソコンに取り込んだりしてからUSBケーブルでD/Aコンバーター(音楽のデジタル情報を実際の音楽として再生できるように変換するシステム)につないで、高音質な音楽を再生するシステムです。最近は、CDプレーヤーもUSB入力に対応した機種が増えてきています。CDプレーヤーは、CD回転系とD/Aコンバーターで構成されていますので、USBから音楽のデジタル情報を直接D/Aコンバーターに入力すれば音楽が再生できるのです。iPodを直接機械に装着して高音質な再生を可能にするシステムも出てきています。そしてリン・プロダクツは、とうとう2010年より通常のCDプレーヤーは生産せず、回転系をもたないDSシステムのみを生産していくと発表しています。デジタルの分野は、一年一昔のスピードで変化しています。メーカーも生き残りをかけ必死です。
 今後オーディオでやりたいことはいくらでもあります。グラフィックイコライザー(いくつかの周波数帯域ごとに、つまみなどによってアンプのゲインを増減して、音質をコントロールする回路)の追加やルームチューニング、ケーブルの変更などなど、考えるだけでもわくわくしてきます。このような趣味に出会えたことに感謝します。

<現用システム>
○スピーカー:エール音響の5ウェイ/マルチアンプ駆動
○レコードプレーヤー:マイクロ精機のエアフロートシステム
○カートリッジ・トーンアーム・昇圧トランス:イケダ・サウンドラボ
○プリ・パワー・フォノアンプ・CDプレーヤー:ラックスマン
○チャンネルディバイダー:アキュフェーズ、ベリンガー

次回は、鬼丸内科循環器科の鬼丸 円先生のご執筆です。(編集委員会)




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