=== 新春随筆 ===

寅 年 男 の た わ ご と

(T15.9.23生)
南区・谷山支部

     河野 泰郎
  虎は千里を行き、千里を還るという諺もあり、戦時中は出征する兵士に寅年生まれの人のげんをかついで、白い布に赤い糸で印をつけ、武運長久という文字の千人針の腹帯を作り、無事帰還するようにという願いをこめて、戦場へ送り出したものである。生死の境をさまよいながらも、無事帰還した人もいるが、多くの若い元気な兵士達が祖国の再生を夢見ながら、無言の帰還をしたあの時代のことが強く印象に残っている。
 今年は廻り廻って早や7回目の年男を迎え、また一つ馬齢を重ねた。だが、年老いたか否かは暦年令の問題ではなく、精神の若さに関する問題である。
 薩摩半島坊津の海の丘に作家梅崎春生氏の人生幻化に似たりと刻まれた碑が建っている。人生は春の夜の夢の如きもの、人の命は風の前の塵に同じと平家物語の冒頭の節はあまりにも有名である。
 四季豊かな日本人には、自然の無常なるさまを美意識として、捉える習性がある。が、人生は、はかないものであるからこそ、限られた命を大切に、日常を精一杯、生きて行かねばならないと心懸けている。自分が生きたいように自由にのびのびと生きられたら、どんなにいいことだろうと考える。色々な挫折に耐え、好奇心を持ち、何か新しいことにチャレンジしながら。サムエルウルマンの詩ではないが、年を重ねただけでは人は老いない。夢を失った時に老いるのだという青春の詩を思い出しながら、これからも、何か夢を追い続けながら、今生きている感謝と喜びを持ち続けながら、ゆっくり、のびのびと歩き続けたいものである。




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