2010年喜寿の新春に想う：戦争体験と追悼地球一周船旅余話
東区・紫南支部 有馬 榮德 |
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| 読売新聞復刻版太平洋戦争 |
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| 8月15日の終戦の日 |
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| ひめゆりの塔 |
去る12月8日の朝、病院のナースステーションで看護師、看護研修生に「今日は何の日?」と聞いたら誰も答えられず世代の交代を痛感しました。私共の世代ですぐ頭に浮かぶのは、“天佑ヲ保有シ萬世一系ノ皇祚...（中略）朕茲ニ米国及英国ニ対シテ戦ヲ宣ス...”という天皇の詔書。朗読する声が自然と想起されます（読売新聞復刻版“太平洋戦争 上巻、下巻”秋元書房、写真上参照）。8月15日の終戦の日（同写真下）も同様です。平和な飽食の時代に生き、戦争を知らない世代の方々に戦時中の死の恐怖や戦中戦後の食糧難の空腹などを理解して貰うのは難しいかもしれません。それでも戦争を体験した私共はこれらの体験を次世代に伝え、戦争は繰り返さないことを誓うべきでしょう。同時に戦争のために犠牲になられた方々を敵味方を問わず追悼するのも重要と考え、私は4年前に地球一周の船旅104日間でラバウル、東南アジア海域、スマトラ・インド洋など目的の大部分を巡礼しました。
さらに昨年8月には、前回船が横浜出港後台風のため予定の沖縄海域を避け東に迂回、硫黄島海域から比島方向に航路変更したため果たせなかった沖縄巡礼を九州小児外科研究会出席を兼ねて訪れ、私の念願の地球一周戦没者追悼慰霊の旅を補完することができました。研究会の会員懇親会では名誉世話人の一人として乾杯の音頭とりの前に私の沖縄戦跡訪問予定のこと、旧制中学1年、12歳時、終戦の4日前、1945年8月11日午前、母校が米軍の爆撃で全焼、学友15人が爆死、多数の重軽傷者を出す地獄絵の現場を自ら体験していることも戦争を知らない小児外科医会員の前で披露し戦跡等の見学を勧めました。翌日はひとり那覇市近郊戦跡巡り1日コースの観光バスでひめゆりの塔（2回目、次頁写真）や旧沖縄防衛軍陣地、大本営の地下壕なども訪れ、改めて戦争の悲惨さ空しさを痛感しました。
地球一周の航海中はラバウルなど激戦地の現地を訪れ、海底で未だに遺骨も収容されずに沈没船等に眠る慰霊に船上から黒ゴマ数十万粒の散布や薩摩焼酎献杯、合掌を各地で繰り返し、スマトラ地震大津波犠牲者にも同様の祈りを捧げました（鹿児島県医師会報平成18年9，10月号、九州大学麻酔・蘇生学教室同門会報第16号・2005年、17号・2006年、20号・2009年参照）。
ラバウル港など世界各地の激戦地の海底などで未だに収容されず沈没船等に眠る遺骨の収集を急ぎ、できるだけ早くDNA鑑定などで近親者を確認して引き渡すべきと考えます。私の4兄も北朝鮮で終戦直前に軍に徴用され、コレラで戦病死し、戦友の方に爪、頭髪、家族の写真などの遺品を届けていただいていますが、埋葬地は中国、ロシアとの国境に近い北鮮の田舎と聞いており、機会があれば墓参に訪れたいし、できれば遺骨を探し出してDNA鑑定までと念じています。墓参りが実現するまでは我が家ではまだ戦争は終わっていないと言えます。
2． 薩英戦争（まえんはまいっさ：前之浜のいくさ）余話
生麦事件は1862年（文久2年）島津三郎（久光）の行列が江戸をたって西にくだり、生麦村を過ぎた午後2時ごろ英国人4人が騎馬で行列に割り込み、薩摩藩士奈良原喜左衛門、海江田武次（信義のち枢密顧問官）、久木村治休（隼人町浜之市、91歳以上生きる）などが商人のリチャードソン（3人に斬られ死亡）など男性3人を殺傷した事件で、この事件が発端で1863年8月11日、7隻の英艦隊が鹿児島湾に“ぬっと”はいってきて1週間、薩摩藩自慢の汽船3隻（ドイツ製天佑丸、米国製の白鳳,青鷹丸－30余万ドルあまり）は略奪され焼かれ、英艦の新兵器アームストロング砲などで磯の台場、祇園洲砲台などは旧式の砲門で奮戦しましたが壊滅、上町の市街地区の大部分が消失する被害を受けています。開戦の日が台風であったことも薩摩には幸いし敵艦も艦長、副長などが戦死するなど損害を受け1週間で湾を出ています。
この戦争に、東郷平八郎元帥（16歳）、山本権兵衛（12歳、のち首相）、大久保一蔵（利通、のち内務）、伊藤四郎（裕享、11歳、のち元帥）、敵艦へのスイカ売り決死隊の中に黒田了介（清隆、のち首相）、大山弥助（巌、のち元帥）、西郷信吾（従道、のち海、内相）、野津七左衛門（鎮雄、のち海軍中将）、海江田武次（信義、のち海軍中将、枢密顧問官）や伊知地竜右衛門（正治、のち宮中顧問官）、重野厚保之丞（安繹、のち史学者、文博）など明治のそうそうたるメンバーが見られます。
英艦来襲の諸郷の警備部署の中に、蒲生、帖佐、国分、中郷（東郷町）等の記述は見えますが、串木野郷の名前は見つかりません。しかし、いちき串木野市上名の串木野城址麓の私の曽祖父にあたる有馬彦之丞が薩英戦争の時戦場に駆けつけた際着用したという陣羽織が拙宅に残されています。曽祖父が篤姫の時代に島津出城の武士の一人として、小規模ながら日本で最初の近代型の西洋との戦争に出陣していたことを誇らしく思う今日この頃です。
鹿児島湾に敵艦来襲の報は東目の大隅ではきわめてのんびりで、当時薩摩藩庁が東目の諸郷に急使を走らせる道順は“桜島筋”というコース。桜島を起点に、垂水、大姶良、大根占、佐多、田代、内之浦、高山、吾平、鹿屋、串良、大崎、最後が志布志となっており、今の駅伝のように伝令が回りました。吾平郷や内之浦郷から出兵した郷士たちは、すでに戦争は終わっており、いずれも途中で引き返しています。一方、藩内最大の私領である都城島津家は、志布志湾の警備にむかいました。英艦の別働隊が志布志湾に上陸することを心配しての防備でした（鹿児島百年〈上〉幕末編、南日本新聞社編、1968ほかより）。
志布志と言えば、太平洋戦争末期、1945年沖縄が米軍に占領されたあと、次の本土上陸作戦の第一候補の海浜とされ、海岸線や丘陵地帯の長い地下壕に日本軍の陣地、少し山側に大本営が設置されていました。当時筆者は旧制加治木中学1年生でしたが、4年生はこの志布志海岸の“たこつぼ”（人一人がやっとはいれる迎撃用の壕）掘りの奉仕作業に動員されています。この頃12歳の筆者ら1年生は、体育・教練の時間は運動場では木製の模擬手榴弾を匍匐前進して敵方に投げる投擲訓練、柔道は投げ技や寝技でなく、一撃必殺の当身技のみ、剣道の時間は木刀を振り上げて講堂の端から端まで“必殺”の“切り込み”の稽古をするという戦争末期の特殊な体験をしています。
その因縁の志布志湾夏井の断崖上に建つ療養型病院3階の医師居室で東に太平洋、ダグリ岬、びろう島、内之浦ロケット基地の岬を望みながら2010年新春の平和な朝を迎えます。病院東の海浜に降りる急な142段の土階段を上下しつつ、リハビリを兼ねた海釣りも楽しみながら、戦中戦後の困難な時期に日本の復興、繁栄にご苦労なさった百歳以上六人を含む百人の療養者の方々に思いやり（O）と感謝（K）の気持ちを込め、総合診療に取り組んで参ります。
皆様にとりまして新年がすばらしい年でありますように、ご健勝を祈念いたします（2010． 01． 01）。
(C)Kagoshima City Medical Association 2010