随筆・その他
「喘息に対する意識」
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中央区・清滝支部
(高見馬場きじま内科) 貴嶋 宏全
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呼吸器系クリニックとして開院し4年目となりました。
開院当初、患者から“喘息専門医ですか”と聞かれることに違和感をもっていました。僕は呼吸器内科の専門で喘息だけを診ているわけじゃないのになあ…と思ったからです。
大学時代は外来患者の8割は喘息患者で、入院患者の8割が肺癌とその他の患者(間質性肺炎・COPD〔慢性閉塞性肺疾患〕急性増悪など)でした。RCU(呼吸器疾患集中治療室)で非侵襲的人工換気療法や人工心肺を使った集中治療を行ったり、呼吸器疾患全般の診療をしていました。
現在は重症患者の集中治療をすることも無く、肺癌患者の化学療法やターミナルケア、まれな疾患の診療に携わることも少なくなっており、呼吸器疾患の新しい知識や経験が不足してきていると感じています。
当院の外来患者も8割が喘息患者となった今では喘息専門ですかと言われてしまうと、そうですねと答えるのが適切なのかもしれません。
関東で10年以上診療してきましたが、帰ってきて驚いたことは鹿児島の喘息死亡率が実質的に日本で1番ということです。死亡率が過去10年以上にわたりワースト3から抜け出たことがありません。
僕は首都圏の方が大気汚染等で重症な喘息患者も多く死亡率も高いと思っていたからです。大学病院で診療していたこともあり難治性喘息の患者を多くみてきました。自分の患者が悪化すると自分の入院患者となり忙しい病院業務をさらに忙しくしてしまうため外来では先手先手の治療と病態の悪化防止(悪化時の吸入ステロイドの増量や経口ステロイド剤、抗生剤の内服指示等などの患者教育・ワクチン接種etc.)に努めていました。難治性喘息やCOPD with Asthma(喘息合併COPD)の患者さんは気道感染で容易に呼吸不全となって入院になってしまいます。更に重症な患者は人工呼吸管理となることが多く、特に平素から呼吸困難感が強い重症患者では人工呼吸器を離脱するのに月単位の治療期間を要し患者の苦痛もそれ相当でした。そのため、患者によってはリビング・ウィル(尊厳死の権利を主張して、延命治療の中止を希望するかなどの意思表示)を外来でとることも多くありました。
鹿児島県の喘息死亡率を低下させるにはどうしたらいいのでしょうか?僕なりに考えてみました。
県民性かもしれませんが頑固で自分勝手な判断を下す人が多いように感じます。患者に喘息治療を続けなければならないことを十分説いても、喘息症状が無くなったら治療を中止してしまうことが多いです。特にステロイドは副作用が怖いと思いこみ吸入ステロイドを何より先にやめてしまう患者もいます。患者が自分勝手な判断をしてしまうのは、正確な情報の不足からくるものと考えられます。患者もしくは医師を啓発すべき呼吸器科医の絶対的数が不足していることや、インターネットの普及の悪さが重なり、患者・医師が情報を入手できる手段も限られているためと考えています。
また、喘息治療費にかかる経済的負担が大きいことも影響していると思われます。このことは医師側の治療面にも大きく影響を与えているようにも思います。実際、僕自身の診療スタイルも関東で診療していたときと現在では違います。
エビデンス・効果・コスト・コンプライアンスを考慮しバランスがとれているところで治療を組み立てています(コストを考えていなかった以前の自分が現在の投薬内容を見たら違和感を感じるでしょう)。
専門外の先生方にも知識をつけてもらい、喘息に対する意識を変えることで喘息死を減らすことができると思います。喘息治療薬の改良とガイドラインによって、ほとんどの喘息患者は無症状となるまで十分にコントロールできる疾患となりました。十分な治療を行っても症状が残る症例は呼吸器科医に1度は紹介する必要があると思います。十分な治療とは吸入ステロイド最大量・長時間型β刺激薬・抗ロイコトリエン薬を使って治療することです(呼吸器内科医は喘息治療で経口β刺激薬・テオフィリン製剤・鎮咳薬をほとんど使いません)。
首都圏と地方とでは医師-患者関係に温度差があります。首都圏では医師は“医者”とよばれ地方では“お医者様”と呼ばれます。だんだん格差は縮まるにしても、いずれ鹿児島でも“医者”と呼ばれる時期が来ます。ネットやマスコミからの情報のため患者にも医学知識があり、医療訴訟が増えてきています。患者本人が何も言わなくても周りが騒いで訴訟となるケースもあります。例えば短時間型β刺激薬(メプチンやサルタノールなど)を漫然と処方されていた患者が喘息死となった場合、家族から訴訟を起こされれば負けてしまう可能性は高くなります。
診療は日中行うため専門外の医師は、喘息患者の状態を軽く見積もってしまいがちになります。喘息症状の強い夜間の症状を聴取して治療を決めなければなりません。患者も夜間より症状が軽くなってきているため、良くなっていると勘違いしていることが多々あります。また、喘息治療は咳や痰が全くない状態まで理想的にはコントロールしなければなりません。症状がある場合は十分な治療を入れていくべきです。
医師の急性期治療の意識改革も必要です。十数年前の大学時代、夜間外来の喘息の急性期治療は僕らレジデント(卒後1〜2年目)の仕事でした。その中身は、喘息発作で救急外来を患者が受診され低酸素状態であれば酸素吸入をしながら、ソリタT3 500mlにネオフィリン250mgとリンデロン2〜4mgで2時間かけて投与し改善しなければ、再度ソリタT3 500mlにネオフィリン125mgとリンデロン2〜4mgで2時間かけて点滴して改善傾向であればβ刺激薬のネブライザーを行い帰宅してもらっていました。この時点で改善していなければ説得して必ず入院としていました。
現在ではより強力な抗炎症をという考えからリンデロンからソルメドロール125mgとなり副作用の観点からネオフィリンは少量もしくは使わなくなりました。β刺激薬のネブライザーのみで帰宅させることはほぼありませんでした。外来患者の多くは短時間型β刺激薬の吸入をしてから来院されているケースが多くネブライザーの効果が限定的であるため必ずステロイドを使うように指導されていました。
喘息のガイドラインも記載内容を変更すべきとも考えています。
鹿児島県は喘息で亡くなられる方が多いという現状を受け、喘息死ゼロを目指し“鹿児島ぜんそくネットワーク”が発足しました。
鹿児島ぜんそくネットワークは、喘息患者の対応が24時間可能で、常勤の呼吸器内科スタッフがいる基幹病院とかかりつけ医(一般開業医)からの構図となっています。
また、知識や情報の普及・啓発のため、定期的に気管支喘息についての勉強会や症例検討会(医師・コメディカル)が行われています。
基幹病院として今給黎総合病院・鹿児島市医師会病院・鹿児島市立病院・総合病院鹿児島生協病院4病院(50音順)が名乗りを上げました。現状は、鹿児島市内だけですが今後拡大されていく予定のようです。このような取り組みで、喘息に対する認識が変わり、喘息で亡くなる方が減ることを願います。
| 次回は、国東内科小児科の國東幹夫先生のご執筆です。(編集委員会) |

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