緑陰随筆特集

最近の歯科事情
鹿児島市歯科医師会 会長 
               橋口 哲彦

 鹿児島市医師会の皆様、こんにちは。私は平成21年4月に鹿児島市歯科医師会の会長に新しく就任しました橋口哲彦と申します。
 鹿児島市歯科医師会の多くの会員が鹿児島市医師会の先生方には、日頃より大変お世話になっています。この場をお借りしてお礼申し上げます。
 最近は、歯科の治療に来られる患者さんの多くの方が、なんらかの有病者であり、投薬を受けていたりして、歯科の治療に際して主治医のご指示を仰ぐ場が多々あり、そのつど医師会の先生方にはお世話になっています。
 また、近年は糖尿病と歯周病の関係が明らかにされ、県歯会の平成20年のアンケート調査によると、糖尿病協会歯科医師登録をしている会員が28%で、また、在宅療養支援歯科診療所の届けを出した会員が12%となっています。
 今後は、医科歯科連携では、回復期における「口腔機能向上」や「口腔ケア」などで歯科医がご一緒させていただくことがあるかも知れませんが、その節はよろしくお願いします。
 この度,「鹿児島市医報」の宇根編集委員長より寄稿のお話がありましたが、私は、とても筆不精でありお断りしようかとも思いましたが、折角の機会ですので市医師会の先生方に歯科医療の実情を知っていただきたく筆をとりました。
 歯科医療白書2008年度版と歯科医療管理報告書平成20年度のデーターを基に記します。

国民現在歯数
 日本歯科医師会では、8020運動(80歳になっても20本以上の自分の歯を有し不自由なく食事が取れる人を増やす運動)を国家施策として活動中ですが、2005年時点での実態は、80〜84歳で20歯以上保有している者の割合は21.1%であり、1人当たり8.9歯でありました。70〜74歳で20歯以上保有している者の割合は42.4%であり、1人当たり15.2歯でありました。60〜64歳は20歯以上保有している者の割合は70.3%であり、1人当たり21.3歯でありました。
 55歳以上の年齢階級では1975年、1981年の調査時点が最低値でその後はすべての年齢階級で増加しています。(図表1)
 これをみますと、8020者の割合や一人平均歯数では8020社会に達したとはまだいえませんが、8020の方向に間違いなく進んでいるようです。


歯科医療の需要
 
 全国の歯科患者数は「患者調査」で見ると、2005年10月1日の歯科推計患者数は、127万7,200人と推計されています。(図表2)これは、医科を含めた全外来患者数の18.0%を占めています。
 84年は110万人でその後96年には130万人まで増加していますが、しかし99年になって急激に減少に転じ、2002年には115万人まで減少しています。
 直近の2005年には128万人と歯止めがかかり、増加に転じています。
 この99年と2002年は、医科の一般診療所においても減少しています。
 これらの患者減少は制度改正(改悪)が大きく影響していると思われます。
 97年9月および2003年4月から健康保険法等改正が施行されています。
 その主な内容は、97年が@被用者保険本人の一部負担金が1割から2割になった。A老人医療費の一部負担金を引き上げた。等です。
 2003年は、保険制度間の給付率を7割給付に統一した(被用者保険本人の給付率を8割から7割に引き下げた)等です。

歯科医療の供給
 2006年末の医療施設従事の歯科医師数は、9万4,593人で人口10万人当たりの歯科医師数は、74.0人でした。
 2000年12月末現在と比較すると、6年間で歯科医師総数は、6,341人増加(増加率7.0%)し、人口10万人当たりの歯科医師(総数)は、71.6人から76.1人と4.5人の増加(増加率6.3%)となっています。(図表3)
 歯科医療白書によりますと、2006年の時点で8,800人が過剰歯科医師であると言っています。

歯科医療費
 2006年度の歯科診療医療費は、2兆5,039億円で、国民医療費全体33兆1,276億円の7.6%でした。
 国民一人当たりの歯科診療医療費は1万9,600円となりますが、これは医科医療費(外来)の10万100円の1/5であります。
 国民医療費に占める歯科診療医療費の割合の推移を見ますと、89年度に約10%を占めていたのが、徐々に減少し、95年度には8.8%に、99年度は8.3%と10年間に約2%という急激な減少をしています。(図表4-1)(図表4-2)


 ちなみに、この割合の過去最高は、62年度で、12.4%でした。
 医療三師会の中で、歯科医師だけが取り残されているようです。

鹿児島県の歯科医療の状況
 本県の歯科医療の状況を「診療所数、診療報酬金総額の年度別推移」で平成10年度を100とした指数で見ますと、診療所数は平成20年度が、A指数105となり確実に増えています。
 また、診療報酬金総額のB指数は、少しずつ下がってはいましたが、平成15年度あたりから急激に下がり、平成20年度は、84となっています。(図表5)
 歯科診療所が増え、歯科診療報酬金総額が減れば、当然歯科診療所の経営は、厳しいことになります。
 歯科医療の悲惨さは、鹿児島県に於いても、全国以上であります。

最後に
 国の医療福祉政策の減退は、医師会の先生方も嘆いておられると思いますが、骨太方針で社会保障費を2,200億円削減の政策のあおりで、前々回の保険改定で、結果として1,200億円の医療費削減のうち60%に当たる700億円が歯科医療費から削減されています。
 このように、歯科診療の評価が段々と低くみられ、国民医療費に占める歯科医療費の割合が益々低くなり、さらに、過剰歯科医師が増え、コンビニ並みに歯科診療所が乱立しつつあるのが、歯科医療の現状です。
 ここに掲げた数字は、保険診療のみで、インプラントやセラミックによる治療など自由診療等は含まれていませんが、多くの歯科診療所の抱える問題点を反映していると思います。
 私たち歯科医は、このような劣悪な状況のもとで、地域歯科医療に取り組んでいます。
 鹿児島市医師会の皆様に少しでも、歯科医師の苦悩を感じていただければ幸いです。




このサイトの文章、画像などを許可なく保存、転載する事を禁止します。
(C)Kagoshima City Medical Association 2009