緑陰随筆特集

「作業療法士が行った認知症予防教室の紹介」
 
一般社団法人 鹿児島県作業療法士会 霧島・姶良支部
玉昌会 加治木温泉病院 総合リハビリテーションセンター
                    作業療法士 四元 孝道

 認知症予防は介護予防事業の中の一つで、各市町村単位で行われています。介護予防事業は平成17年度の厚生労働省のモデル事業を皮切りに始まり、平成18・19年度と実績も報告されています。その中で、運動機能予防などは各市町村で活発に行われていますが、この介護予防事業に率先して携わる作業療法士(以下、OT)は鹿児島県内には多くおりません。

図 1 軽体操の様子
図 2 旅行の計画案
その県内のOTはほぼ鹿児島県作業療法士会の会員であり、本会は本年4月をもって法人化され、一般社団法人鹿児島県作業療法士会となりました。その活動は、事業部や教育部および学術部をはじめとして、鹿児島を4つの地域に分けた支部も活動をしています。その1つである霧島・姶良支部は地域の公益事業として、OTの広報活動も含めて認知症予防教室をK町に提案したところ、共催にて協力を得られて開催することができました。そこで、今回はその認知症予防教室の概略を紹介したいと思います。

【対 象】
 特定健康診査では、生活機能評価(以下、基本チェックリスト)と呼ばれる自己調査を行います(表1)。これは、生活機能動作、運動機能向上、栄養改善、口腔機能向上支援、閉じこもり予防支援、認知症予防支援、うつ予防支援等の7つの大項目に分類され、25個の質問項目より構成されています。また、身長や体重および血圧等の身体機能を勘案したうえで、特定高齢者として介護予防事業の対象者とされます。
 今回、平成20年7月にK町にて特定高齢者と判断され、その基本チェックリストの認知症予防支援項目にチェックをつけた116名中、認知症予防教室への参加希望があったのは17名(男性5名、女性12名)でした。認知症予防支援項目は、周りの人から「いつも同じ事を聞く」等の物忘れがあると言われますか、自分で電話番号を調べて、電話をかける事をしていますか、今日が何月何日か分からない時がありますか、の3つの質問より構成され、今回の対象者は、いずれかの項目に自己チェックを付けていました。さらに平均年齢は81.1±5.7歳でした。

【方 法】
 認知症に陥る前段階にエピソード記憶障害、注意分割機能障害、遂行機能障害が出現すると言われます。そのため、今回の認知症予防教室では対象者に対して、週1回2時間、一回の前半はReality Orientation、軽体操、Trail Making Test-A・B、リンク法等の認知的な活動を行い(図1)、後半に作業活動等及び生活・運動習慣の指導を行いました(図2)。それらを合計12回の3ヵ月行いました。なお、第1回、第12回にHDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)を施行し、基本チェックリストは本教室の前後に行い、さらに第12回目に本教室に関する感想等のアンケートを行いました。

【結 果】
(1)HDS-R得点の変化
 第1回目は23.2±6.1点で第12回目は26.3±3.7点へとウィルコクソンの符号順位和検定の結果、有意な改善(p<0.05)を示しました(図3)。改善が著しかった項目は数字の逆唱、5つの物品記憶、3つの言葉の想起でした。
(2)基本チェックリスト
 本教室の前後において基本チェックリストの合計得点の有意差はみられませんでした(図4)。また、その合計得点の各個別変化の比較で、向上した対象者は69%、維持だった対象者は8%、低下した対象者は23%でした(図5)。
 次に、基本チェックリスト内の項目別の比較で認知症予防支援項目においてウィルコクソンの符号順位和検定の結果、有意な改善(p<0.05)がみられました(図6)。また、認知症予防支援項目の各個別変化の比較で、向上した対象者は61%、維持だった対象者は31%、低下した対象者は8%でした(図7)。
(3)アンケート
 その結果によると(図8)、T参加して良かったと答えた対象者は全体の83%でした。U印象に残った活動は、全体の34.6%が頭の体操(認知的な活動)と答え、30.8%が講義と答えました。Vもう一度参加したいと答えた対象者は75%でした。大多数の対象者が本教室に満足していました。また、参加して良かったと思うことはどのようなことですか(表2)の質問に対しては,「元気になって若返ったようです」や「今迄に無いことを勉強させて貰って本当に心より嬉しいです」などが聞かれ、今回の教室に参加した中で自分の変化点はありましたか(表3)の質問に対し「一つの事しか出来なかったが、他のことも簡単な事は出来るようになりました」や「毎日の生活を考えるようになりました」等の回答がみられました。


【今後の課題】
 今回は、本教室の対象範囲はK町のみで活動したため、この活動が広く地域で展開出来るよう鹿児島県作業療法士会や各医療機関および行政と連携を深める必要があると思われます。また、各医療機関との連携において、専門医やかかりつけ医の連携はもちろんですが、本事業を地域へ普及させるため、自治体へのOT広報も重要です。そうすることで、地域における認知症の早期発見・早期治療へ繋げられるのではないでしょうか。さらに、本事業を効果的に展開する為にOT等の専門職種の確保と地域住民によるサポートボランティアを募集し、講師やスタッフを確保する必要もあると思います。
 今回の参加者から認知症予防教室に再度参加したいという希望者が多数いたため、フォローアップ体制をさらに確立させ認知症予防教室の継続に努めていきたいと考えています。また、認知症予防活動において、OTが非薬物療法の一端を担えるように研鑽しつつ、介護予防事業へ積極的に携われるように努めていきたいです。なお、本活動の概略は2009年3月に行われた第20回鹿児島県作業療法学会にて報告し、平成21年3月発行鹿児島県介護予防マニュアルにも紹介されています。



 

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