鹿市医郷壇

兼題「嫁(よめ)」


(357) 永徳 天真 選




錦江支部 城山古狸庵

横ご爺も嫁ん言う事ちゃ直き聞っ
(よんごじも 嫁んゆうこちゃ いっききっ)

(唱)平生ちゃ返事もした事ちゃ無かて
(唱)(かねちゃ返事も したこちゃなかて)

 元来仏頂面で、臍曲がりの爺さんも、新しい家族の一員である優しいお嫁さんから、いつも「お義父(とう)さん」と気遣ってもらうと、笑顔になったり、素直になれるものなのでしょう。
 姑の嫉妬心もありそうですが、人は相手次第でこうも変わるものなのかと、滑稽に促えられています。




 武岡 志郎

姑御ずい頼いにさるっ嫁いなっ
(しゅとじょずい たよいにさるっ 嫁いなっ)

(唱)褒めっ歩るちょい自慢の嫁女
(唱)(ほめっさるちょい 自慢のよめじょ)

 おそらくこの息子夫婦は近くに住んでいて、お嫁さんも夫の実家によく顔を出しているのだと思います。
 そこでは姑とも仲良くして、いろいろと手伝いをしたり、また話し相手になったりして、何事にもてきぱきと対応しているのでしょう。上五の表現が効いている、太鼓判を押された嫁のようです。




錦江支部 城山古狸庵

過疎ん村れ良か嫁が来っ郷中あ騒動
(過疎んむれ よか嫁がきっ ごじゅあそど)

(唱)次ぎゃ子を産めち気の早かこっ
(唱)(つぎゃ子をうめち 気のはやかこっ)

 過疎化の田舎や農村の嫁不足は、深刻な問題だろうと思います。
 住人の大半が高齢者で、子供たちも少なければ活気もないでしょうが、そんな村に待望のお嫁さんが来てくれました。
 村にとっての救世主のような、気さくで明るいお嫁さんに、大喜びの様子が伝わってきます。


 五客一席 武岡 志郎

迎め来た嫁い管巻がすたっ止ん
(むかめ来た 嫁いじじらが すたっやん)

(唱)女房天下ちしっかい発覚っ
(唱)(かかあでんかち しっかいばれっ)


 五客二席 紫南支部 紫原ぢごろ

嫁が来っ我が家ん流儀少す変わっ
(嫁がきっ 我が家ん流儀 ちすかわっ)

(唱)互い良か態い変ゆっとも知恵
(唱)(互いよかふい かゆっとも知恵)


 五客三席 大崎町 植村聴診器

軒端違げ案の定嫁はいびられっ
(のっばちげ あんのじゅ嫁は いびられっ)

(唱)時代錯誤ち訴えやんせ
(唱)(じだいさっごち うったえやんせ)


 五客四席 上町支部 吉野なでしこ

此の頃は姑が嫁い気を遣こっ
(此の頃は しゅうとが嫁い 気をつこっ)

(唱)気遣やどしこ過ぎてんよかろ
(唱)(きづかやどしこ すぎてんよかろ)


 五客五席 伊敷支部 谷山五郎猫

本人よっか親が騒らし嫁女貰れ
(わがよっか 親がせがらし よめじょもれ)

(唱)やいやい言うでプレッシャいなっ
(唱)(やいやいゆうで プレッシャいなっ)


   秀  逸

清滝支部 鮫島爺児医

嫁姑今時か嫁が強よけなっ
(嫁姑 いまどか嫁が つよけなっ)

嫁め行た娘近き居っ方が頼い成っ
(よめいたこ ちかきおっとが たよいなっ)

利口な嫁姑ん仕草を上手し真似っ
(じくな嫁 かかん仕草を じょしまねっ)


大崎町 植村聴診器

白無垢が三日で恥ずばけた離婚
(白無垢が みっかではずば けた離婚)

嫁と姑間で息子は痩せ細っ
(嫁としゅと あいで息子は やせほそっ)


上町支部 吉野なでしこ

でけた嫁親ん都合ば先い聞っ
(でけた嫁 親んつごうば さきいきっ)

嫁姑ん一方が譲っ良か塩梅
(よめしゅとん いっぽがゆずっ よかあんべ)


伊敷支部 矢上 垂穗

犬も外畳も替えっ結納受け
(いんもそと たたんもかえっ ゆいのうけ)

孫育し女房と嫁女が仲良ゆなっ
(まごおやし かかとよめじょが なかゆなっ)


錦江支部 城山古狸庵

嫁て十年亭主を下知つすい嫁いなっ
(きてじゅねん ととをげつすい 嫁いなっ)


 武岡 志郎

嫁ん座は射止ったが厳し姑が居っ
(嫁ん座は とったがいみし しゅとがおっ)


紫南支部 紫原ぢごろ

嫁ん世話うぇならんじころっ逝こごたっ
(嫁んせうぇ ならんじころっ いこごたっ)


作句教室
  嫁やった娘が婿を連れ戻っ
  (嫁やった むいめが婿を つれもどっ)

 この句では、しっくりこない表記と表現が二箇所あるようですので、検討してみたいと思います。
一、「嫁やった」
 この表記ですと、方言の他の言い方の「嫁じゃった」と同じ、「嫁だった」や「嫁であった」という意味にもとれます。
 しかし句の全体から句意を読み取ると、「嫁にやった娘が婿を連れて戻ってきた」という意味だろうと思います。そうだとすると、上五の方言での表記は「嫁いやった」となるのですが、六音字の字余りになってしまいますので、ことばを縮めた形の「嫁(よ)めやった」と表記します。
 この表記の「嫁(よ)め」の送りになっている「め」は、「嫁に」の助詞「に」の働きをしています。ですから、「嫁やった」と 「嫁(よ)めやった」のように、助詞「に」があるとないとでは意味が全く異なることもありますので、表記では大事な助詞を抜かしてはいけないということになります。
二、「連れ戻っ」
 これは「連れ戻す」という意味にもとれそうな表現になっています。
 「連れて戻る」ですから方言では「連(つ)れっ戻(もど)っ」という表記になります。
 ここで大事なことは「連れて」のように「何何して」という場合、例えば「晴れてきた」「褒めてやる」を、方言では「晴(は)れきた」「褒(ほ)めやっ」と言わないので、「晴(は)れっきた」「褒(ほ)めっやっ」と、正しく表記しなければなりません。
 この大事な小文字「っ」を抜かしてはいけないということになります。

  嫁いなっ婿と一緒き里帰い
  (嫁いなっ 婿といっどき さともどい)



薩 摩 郷 句 募 集

◎8 号
題 吟 「 苦情(くじょ)」
締 切 平成21年7月6日(月)
◎9 号
題 吟 「 稽古(けこ)」
締 切 平成21年8月5日(水)
◇選 者 永徳 天真
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892−0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会『鹿児島市医報』編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:t01-arimura@city.kagoshima.med.or.jp


このサイトの文章、画像などを許可なく保存、転載する事を禁止します。
(C)Kagoshima City Medical Association 2009