== 鹿市医図書室 ==
外科の足跡 〜外科の歴史を築いた数々の手術〜
ハロルド・エリス著 朝倉哲彦訳
バベルプレス社 平成20年10月20日発行
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この本は鹿児島大学医学部名誉教授の朝倉哲彦先生が、ハロルド・エリス教授著、原題「Operations that made history」を翻訳、出版されたもので、平成13年から15年にかけて鹿児島県医師会報に連載されたものをまとめ、刊行されたものである。
本書は、@大いなる突破口A技術革新B高名な患者の三部よりなり、一部においては世界で最初に成功した手術など、二部では外科治療に革新をもたらした技術、三部においては有名人やロイヤルファミリーへの手術例が、それぞれ独立したストーリーとして述べられている。
時代を切り開いてきたエピソードを丁寧に、充分な調査のもと描かれており、腹部外科をはじめ、婦人科・整形外科といった分野で先人たちが遺した足跡をたどり、時代を切り開いてきた手術・手技が紹介されている。胃切除術の術式でのビルロート法の名称は殆どの医師は知っていると思うし、全身麻酔下に無痛で行われるが、これらの手技が開発された当初の様子など興味深い。ほんの200年前にはイギリスの王妃さえも臍ヘルニアの篏頓で命を落としたという例が紹介されているが、現在に至るまでの先人たちの努力と患者さんたちの忍耐で数多くの技術革新がなされ、今日の医療があることを思い知らせてくれる。
訳者は、本書を医師のみならず全ての職種の医療従事者、ならびに患者さんやその家族にまで読んで頂きたいとまえがきに記されている。医学史関係の書物というと何か退屈そうなイメージがあるが、この書はそれぞれの物語が興味深くテンポよく読める構成で、一読して知らず知らずのうちに外科の歴史を学ぶことが出来る。篤姫が明治維新に果たした役割を昨年の大河ドラマで知ることになったが、そのときと似たような心地よい読後感がある。
現在の日本は世界でも最もすぐれた医療システムを有し、われわれ医師や国民全てが進歩した医療の恩恵を受けている。この書は我々に対して、その恩恵にあずかるのみでなく、今日を築いてきた先人にも目を向けることも思い起こさせてくれる。また、手術前の患者さんや、待合室の患者さんにも読んで頂きたい一冊で、広くお勧めできる作品となっている。

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