=== 新春随筆 ===

48  歳  と  は

(S36.5.17生)
東区・紫南支部
(島田ひふ科)

     島田 辰彦
 中国の古い思想『五行説』では、森羅万象は5つの要素から成り立つと解釈されており、それぞれの要素には固有の色『青、赤、黄、白、黒』があり、その由来は、青は青々と繁る木の色、赤は火の色、黄色は黄土、白は金属の光、黒は水が暗く低いところに集まる所とされています。その説に従うと四季は、青春、朱夏、白秋、玄冬という4つより成り立ち、僕ら4回目の年男は、人生を四季で例えれば朱夏から白秋への移行期間あたりかなぁと朧げに思っていました。
 その48歳になる記念に石川達三の『四十八歳の抵抗』を読んでみると、主人公の西村耕太郎の行動や考え方にしっくりこないものを感じました。
 そこで調べてみると出版された昭和30年の男性の平均寿命が63.6歳、48歳÷63.3歳=0.75、暦で言えば秋に入り始める9月という感じです。一方、平成18年の厚生労働省の日本人の平均余命は80歳なので48歳÷80歳=0.6となり、7月中旬の夏そのもので、同じ48歳といえども、時代が違えば、考え方から行動の仕方まで全然違うようになり、違和感を持ったのだと分かりました。逆に昭和30年の48歳は現在ならいくつになるか試算すると、80歳×0.75=60歳でちょうど還暦。そう言えば、藤田宜永の『戦力外通告』という小説の主人公 宇津木秀明は50歳代後半で、『若くはないが、隠居するにはまだ早い。まだやれる、まだいける。けれど、どこで、なにをすればいいか分からない』と悩みながら日常を過ごしており、ひょっとすると10年後の自分も同じ心境になるのかなぁと思ったのを憶えています。そんな事を考慮して『四十八歳の抵抗』を読み返してみると納得がいき、よく言われる様に、実年齢に0.8(63.3歳÷80歳=0.8が根拠でしょうか)を掛けたのが昔の人たちの年齢と同じような感じだという事を再認識しました。
 今、世界で一番有名な僕らと同じ1961年の生まれは、アメリカ史上初のアフリカ系アメリカ人出身のバラク・オバマ大統領でしょう。
 大統領選挙戦で『Change(変革)』と『Yes, we can.(私たちはできる)』の2つの言葉をキャッチフレーズにして、インターネットをフルに利用した選挙戦略は、選挙の戦い方でさえチェンジさせたようです。
 これまでの選挙戦はテレビを中心としたメディアを媒体としたもので、その始まりは僕らの生まれた年に誕生した史上初のWASP(アングロサクソン系白人新教徒)以外の出身で43歳(史上2番目に若い)のジョン・F・ケネディ大統領でした。初めての試みとして実施されたテレビ討論会で、対抗馬のリチャード・ニクソンはメイクアップを拒んだため、照明の下では無精ひげもロクに剃らない、くたびれて、汗だくの老人に見え、しかも、スーツがグレーだったので後ろのカーテンにとけ込んでしまったのに対して、ケネディはメイクばっちりで血色も良く、ニクソンより落ち着いた身なりの整った二枚目に見えたのみならず、その濃紺スーツはグレーの背景から飛び出して映りました。その討論会後の調査でテレビ視聴者の間では全員一致で「ケネディの勝ち」と、リチャード・ニクソンの深く、強く、ラジオ向きの声はラジオ視聴者みんなを虜にし、ラジオで同じ討論を聴いていた人たちは全員一致で「ニクソンの勝ち」だと思ったという逸話は有名です。
 一方、オバマ大統領のやったインターネットを利用した選挙戦は、最初に数百万のEメールで選挙への支援を訴えていき、次にインターネット上のサイトを有効に使って、若者たちを初めとするインターネット世代に、選挙のボランティア活動参加を呼びかけ、ネットを使ったオバマ選挙戦のグループ会合を15万回以上も行いました。さらに献金もサイトから可能にし、誰にでもできそうな小額からの寄付を募り、最終的には6億ドルを超える支援金を集め、ワールドシリーズの第5戦の前にオバマの選挙戦コマーシャルを30分も全米7大ネットワークで流したのは記憶に新しい出来事だと思います。
 今回、48歳になるにあたり読んだり調べたりして、今が『人生の朱夏』で一番楽しく充実した日々なのだと自覚し、オバマ大統領のように『今更ではなく今から』という常に前向きに、そして、天台宗の酒井雄哉大阿闍梨の言葉『一日一生』という思いを持って大切に生きてゆこうと思いました。





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