鹿市医郷壇

兼題「髭(ひげ)」

(344) 永徳 天真 選




錦江支部 城山古狸庵

髭剃いの最中け聞こゆい高鼾
(ひげそいの さなけ聞こゆい たかいびっ)

(唱)ぐっすい眠っ夢どん見ちょっ
(唱)(ぐっすいねぶっ 夢どんみちょっ)

 理髪店での光景を、店の人の側からよく促えています。イスに寝て髭を剃られるときは、自然と目を瞑り、リラックスして、ついうとうととなってしまいます。
 この客は、余程お疲れのご様子で、鼾をかいてしまいました。その鼾に苦笑しながら髭を剃り終え、肩でも叩いて起こされたことでしょう。おだやかな句です。




大崎町 植村聴診器

定年亭主す余計老けさす無精髭
(てねんてす じんじふけさす ぶしょうひげ)

(唱)ずんだれたごっあっ恥ねこっ
(唱)(ずんだれたごっあっ げんねこっ)

 会社や役所勤めの現役の頃は、毎日きちんと髭も剃り出勤でした。それが、定年退職したら、髭剃りも定刻にする必要がなくなったのでずぼらとなって、とうとう気ままな無精髭となりました。
 みっともない見た目もですが、それより気持ちが弛んでいることを心配している奥さんの気持ちがよく伝わってきます。




紫南支部 紫原ぢごろ

髭作い思め如っならじ剃い落てっ
(ひげづくい おめごっならじ そいおてっ)

(唱)時期尚早ち髭ん方が拒否
(唱)(時期尚早ち 髭んほが拒否)

 ひげは、髭、鬚、髯と、種類や形もいろいろですが、昔から男の象徴として、髭には何かしら威厳があったようです。
 今、周囲を見ても髭を生やしている男性は少ないですが、その髭には個性があり、自己主張を感じます。そんな髭に挑戦したものの、似合わなかったのか髭に嫌われたのか、自己主張ならずでした。



 五客一席 武岡 志郎

我が家でな塵出し髭が使われっ
(わがえでな ごんだし髭が つこわれっ)

(唱)妻ん言事ちな文句も言わじ
(唱)(かかんゆこちな 文句もゆわじ)


 五客二席 紫南支部 紫原ぢごろ

デートいな髭を剃いかて念が入っ
(デートいな 髭をそいかて ねんがいっ)

(唱)キスいなっかもしれんで丁寧い
(唱)(キスいなっかも しれんでてねい)


 五客三席 伊敷支部 谷山五郎猫

髭を剃っ我じゃ美男子じゃち思っ
(髭をそっ わがじゃよかにせ じゃちおもっ
(唱)無精髭かあすれば少す増し
(唱)(無精髭かあ すればちすまし)


 五客四席 錦江支部 城山古狸庵

髭顔ん名を思め出さん同窓会
(ひげづらん 名をおめださん どうそかい)

(唱)がらっ人相が変わっ分からじ
(唱)(がらっにんそが 変わっ分からじ)


 五客五席 上町支部 吉野なでしこ

無精髭験ぬ担っちのばせ方
(無精髭 げんぬかつっち のばせかた)

(唱)白星街道どこずい続こ
(唱)(白星かいど どこずいつづこ)



   秀  逸


清滝支部 鮫島爺児医

髭撫ずい手付っで分かい爺が機嫌
(ひげなずい てつっでわかい じがきげん)

付け髭は格好は良どん直きばれっ
(付け髭は かっこはえどん じきばれっ)

髭剃いにゃ朝飯よっか時間が要っ
(ひげそいにゃ 朝飯よっか とっがいっ)


大崎町 植村聴診器

偉ろ見えた髭も剃せば凄ぜ醜男
(えろ見えた 髭もおとせば わぜぶにせ)

赤髭じゃやっちょれん娑婆盥回し
(赤髭じゃ やっちょれん娑婆 盥回し)


上町支部 吉野なでしこ

サンタさん孫も喜くだ白か髭
(サンタさん 孫もよろくだ しろか髭)

又遅刻髭ん手入れい手間を取っ
(またちこっ 髭ん手入れい 手間をとっ)


武岡 志郎

中近東戻いな髭も土産しっ
(ちゅうきんと もどいな髭も 土産しっ)

難敵の父親て仲介つば髭げ頼ん
(なんてっの とてなかだつば ひげたのん)


錦江支部 城山古狸庵

良か髭い似合わん淋し頭ん毛
(よか髭い によわんさびし びんたん毛)


紫南支部 紫原ぢごろ

鼻髭を生やせっみたが様めならじ
(鼻髭を おやせっみたが さめならじ)


伊敷支部 矢上 垂穗

髭を剃っ可愛ぜ顔れなった小笠原
(髭をそっ むぜつれなった おがさわら)


川内つばめ

間にあわじ髭顔んままつばめ乗っ
(間にあわじ ひげづらんまま つばめのっ)


 薩摩郷句鑑賞 15

子が子がち育えたが今じゃ盥回し
(子が子がち おえたが今じゃ たれまわし)
             川崎てい女

 なんと悲しく、切ない句であろう。子どものために、子どものためにと、なりふり構わず働いて、それぞれ一人前に育て上げたのに、年老いた今は、どの子も面倒をみようとはせず、盥回しにしているのである。
 今日は子供の日。すべての親たちは、わが子のすこやかな成長をねがい、幸せを心から祈っていることだろう。少なくとも、親のエゴの犠牲にしてほしくないし、子供もまた、年老いた親を盥回しにするような人間にならないでほしい。


遅せ帰い風呂ん菖蒲どま煮とくれっ
(おせもどい 風呂んしょっどま にとくれっ)
              村田 子羊

 五月五日が子供の日になってから、やや影がうすくなったのが「五月の節句」である。もっとも、月遅れの六月五日に行うところが多いせいもあろうが。
 この節句には、「蓬ふっ」と「菖しょ蒲っ」を軒にさしたり、神仏や墓に供えたり、また菖蒲湯を立てる。
 ところが、帰りが遅かったので、菖蒲が煮とくれた(煮えてどろどろになること)とは滑稽。誇張が生きた句である。
 ※三條風雲児「薩摩狂句暦」より抜粋

《選者通信》
 常連組の皆さんの熱心な投句に加え、最近新しい投句者が増えて鹿市医郷壇が賑やかになってきて、嬉しく思います。
 荒田案山子(かかし)さん、谷山五郎猫(ごろねこ)さん、そして今月初登場の川内(せんで)つばめさんと、それぞれ雅号もユニークです。個性を大事に、味のある句を期待しています。

薩 摩 郷 句 募 集

◎7 号
題 吟 「 浴衣(ゆかた) 」
締 切 平成20年6月5日(木)
◎8 号
題 吟 「 相手(えて)」
締 切 平成20年7月4日(金)
◇選 者 永徳 天真
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892−0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会『鹿児島市医報』編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:y-ishigaki@city.kagoshima.med.or.jp


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