=== 新春随筆 ===


鹿児島市歯科医師会会長

     森原 久樹
 かねてから医師会の先生方には私ども会員が大変お世話になり感謝しているところでございます。また2008年の年明けさぞ素晴らしく、穏やかであったろうとお喜び申し上げます。今年も「鹿児島市医報・新春随筆特集号」に寄稿させていただきありがとうございます。
 夢とは望み、はかない、迷いと辞書にはありますが、私は望みとばかり思っていました。宝くじも夢を買うのだと思っておりますが、かなった事がないのは簡単に実現しないから夢なんだろうと思えるし、今後も宝くじを買い続けるかは迷いがある、外れるとはかない、と言う事はやはり夢とは望みではあるが、迷いでもあり、はかなさでもあるのかなという気になります。
 この事から考えると私ども医療界は夢を追求してはならないのではないかと考えております。なぜなら実現不可能な事を厚生労働省に要求し患者さんにも落胆させ、混乱を招き迷惑をかける事になるからに他なりません。
 一昨年の保険改定のときは歯科は特に厳しく医療界で1,200億円減らされてそのうち700億円が歯科でした。これは医療費の7%しか占めていない歯科の中での700億円ですので歯科界は壊滅的な打撃を受けました。私どもは崖っ縁に立たされているのではなく、すでに転げ落ちています。これを誰が止められましょうか。確かに昨年の参議院選挙では歯科界は頑張り候補が当選しましたが、時すでに遅すぎたようで為すすべがなく議員も何をしなければならないか、まだ整理がついていないのではないかと思われます。
 新年早々夢のない話になりましたが昨年の夏、久しぶりに一人でキャンプに行った時の話しです。前期高齢者(その当時は)に近いのにと子供に中止を勧告されましたが、聞く耳を持たず決行しました時のメモを繙いてみます。

 平成19年8月22日土曜日朝からはっきりしない日で気分もまさにすっきりしない。調査に調査を重ね、県民の森のニッケキャンプ場に行く予定も天候の加減で中止に決定し自転車で散歩と洒落ていたら、ドカ晴れになったので反転してキャンプに行くよう決定。電話でテントサイトを予約してキャンプ場へ。
 テントサイトに着き、トイレ、その他を確認し1人用のテントを10分くらいで張り荷物を降ろす。夜は雨になる事を予想し早めに夕食の準備をして一人味わいながら、非常に充実したひと時を過ごす。夜中は雨になることを想定よりも確信し濡れては困る物は車にしまい、食料と飲み物を入れたクーラーだけをテントのすぐ近くに置きテントに入りラジオを聴きながらかねて味わったことのない物静かな夜が更けていった。8時頃だっただろうか本を読んでいても目が自然に閉じてしまい深い眠りに落ちたみたい。
 夜半前、11時頃だったろうか確信していたことが現実になり雨が降り出したが、想定の範囲内で驚くこともなく余裕で読み残しの本を読みながらまた眠ってしまった。
 明け方、午前2時半頃だったろうか冷たいものが体に落ちてきたのでカンテラを灯し調べた結果、激しい雨の為の雨漏りと分かり、寝袋もビッショリ、体もビッショリでそれからは体温が下がるのを防がなければと思いテントの中で座って過ごす。それでも平然とした振りをして本を読むも上の空で前に進まない。突然、雷が鳴り出しだんだん近づいて来たので、地震・雷・火事・親父の時代に育った私は勇気を奮ってテントの外を見るべく顔を出すと、近くのキャンプサイトに電気を引く電柱があったのを確認していたのでそれを見たら、避雷針が設置してあって安堵した。
 座ったままじっとしていると、今まで経験した様々な事が走馬灯のように通り過ぎて行く。自分はこれでいいのだろうか、人に迷惑をかけていなかっただろうか、子供たちは今後どんな人生を送るだろうかと日常生活では思う暇もない事を考えているうちに、人は全てを失っても挑戦する勇気を失ったらそれで終わりになる。今がどんなに苦しかろうと、何歳になろうと正しい事に向かって挑戦しなければならないとの思いに至った。そうこうするうちに6時になった。相変わらず雨は降り続いている。止みそうにないので意を決してテントをたたもうとすると、神様が同情してくださったのか小降りになったので濡れた寝袋、テント等をビニール袋に入れ車に積み込み6時半にはキャンプ場を後にして冷えた体を温めるべく日当山温泉に向かった。
 一人のキャンプは全て自分が頼りというより自分しか頼れないことを再認識し強い自分にならなければ、また人に頼られる人生を送りたい、人の先を行きたいものだと年老いているくせに充実した一人旅であった。





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