鹿市医郷壇

兼題「鍵(かっ)」


(339) 永徳 天真 選




武岡 志郎

プロポーズ返答はそっち渡てた鍵
(プロポーズ へんとはそっち わてた鍵)

(唱)思め掛けん事ち胸が熱つなっ
(唱)(おめがけんこち 胸があつなっ)

 プロポーズは、人生の一大事業の一つで、そのタイミングがとても重要になります。機が熟し、今まさにその瞬間です。
 相手は一人暮らしの女性でしょうが、おそらくうなずきながら、部屋の合鍵を渡して意思表示をしたのでしょう。
 それが返答だったと、ドラマチックに詠まれています。




上町支部 吉野なでしこ

二度三度鍵が気いなっ帰い方
(二度三度 鍵が気いなっ もどいかた)

(唱)一度で済まじ誠て呆えこっ
(唱)(いっどですまじ まこてぼえこっ)

 家を出てすぐに鍵のことが頭に浮かんで、Uターンしました。確かに締め忘れていて、ほっとしたり、または思い違いだったりしたことは、誰もが一度は経験があり、それを素直に詠まれています。
 心配性の方は、三度もということもあるでしょうし、無駄な時間を費やした自分が、なさけないのかもしれません。




大崎町 植村聴診器

爺が逝たっやっと金庫ん鍵ぐ握っ
(じがいたっ やっと金庫ん かぐにぎっ)

(唱)こいかあ俺が大黒柱じゃ
(唱)(こいかあおいが でこっばしたじゃ)

 何か商売をしているのか、それとも資産家なのか、お金の実権はすべて爺さんが握っていたのでしょう。その爺さんが亡くなり、その後を自分が引き継ぐことになって、金庫の鍵も手にしました。
 「やっと」に、今までお金を自由にできなかったことや、これからの責任の重さの気持ちが込められているようです。


 五客一席  大崎町 植村聴診器

頑張い女房け幸せん運の鍵があっ
(きばいかけ 幸せんふの鍵があっ)

(唱)幸せなれち見ちょい神様
(唱)(幸せなれち みちょいかんさあ)


 五客二席  紫南支部 紫原ぢごろ

アリバイが鍵で逆転勝訴せなっ
(アリバイが 鍵で逆転 しょうせなっ)

(唱)冤罪いならじ万歳じゃった
(唱)(えんざいならじ 万歳じゃった)


 五客三席  錦江支部 城山古狸庵

頃合を計っ合鍵ぐ手渡せっ
(ころあいを はかっあいかぐ てわたせっ)

(唱)好っかあ恋い深こない男女
(唱)(すっかあ恋い ふこないふたい)


 五客四席  清滝支部 鮫島爺児医

どけか鍵ぐ忘れっ女房ん帰ゆ待っ
(どけかかぐ わすれっかかん もどゆまっ)

(唱)早よ帰っけち掛くいケータイ
(唱)(はよもどっけち かくいケータイ)


 五客五席  上町支部 吉野なでしこ

午前様鍵が外れじ焦い方
(ごぜんさあ 鍵がはずれじ あせいかた)

(唱)変し変しちガチャガチャさせっ
(唱)(おかしおかしち ガチャガチャさせっ)


秀  逸

清滝支部 鮫島爺児医

盗っ奴も居らんで故郷あ鍵ぎゃ不要じ
(とっやっも おらんでさとあ かぎゃいらじ)

鍵ぐせんじ開錠けられ居っち大騒動しっ
(かぐせんじ あけられちょっち うそどしっ)

鍵よっか心ん締めが盗難く防っ
(鍵よっか 心んしめが ぞくふせっ)

鍵ぐしてん安心出来ん物騒な娑婆
(かぐしてん 安心でけん せわなしゃば)


錦江支部 城山古狸庵

信用して鍵ぐ預けたや部屋あ空
(しんよして かぐあっけたや 部屋あから)

一年坊ランドセルいな鍵ぎょ下げっ
(いっねんぼ ランドセルいな かぎょさげっ)

鍵ぎゃ有っか金ぬ持ったかち送い出っ
(かぎゃあっか ぜぬもったかち おくいでっ)


武岡 志郎

子ん心れ他人て用心せち鍵ぐ掛けっ
(子んここれ ひてゆじんせち かぐかけっ)

閉めた途端室内ち鳴っ電話うぇ鍵探け
(しめたはな うちなっでんうぇ かっみしけ)

お守いと鍵が揺れちょいランドセル
(おまもいと 鍵がゆれちょい ランドセル)


紫南支部 紫原ぢごろ

鍵ぐ掛けっ外出たが窓どま閉め忘れ
(かぐかけっ でたが窓どま 閉め忘れ)

用心者鍵ぐ掛けた上へ用心棒し
(ゆじんごろ かぐかけたうへ つっぱいし)

金庫鍵数字ずけ忘れっ狼狽ろっ
(金庫鍵 かずけわすれっ ばたぐろっ)


伊敷支部 矢上 垂穗

呆え老爺下がっちょい鍵ぐやれ探げっ
(ぼえおんじょ さがっちょいかぐ やれさげっ)


大崎町 植村聴診器

慣れん旅行税関が鍵ぐ開けち叱っ
(なれんたっ 税関がかぐ あけちがっ)


作句教室

 薩摩郷句の作品には、ことばとことばをつなぐ助詞(が・を・は・になど)が、ほとんど使われています。
 その助詞は、共通語とは異なる方言独特の助詞が使われることが多いですので、その助詞の表記について、具体的に述べてみたいと思います。
   (共通語)       (方言)
「が」 鍵が無い      鍵(かっ)が無(な)か(同じ)
「を」 鍵を掛ける     鍵(か)ぎょ掛(か)くい
               (鍵(か)ぐ・鍵(か)ぎゅ)
「は」 鍵は有るか    鍵(か)ぎゃ有(あ)いか
               (鍵(か)が)
「に」 問題の鍵になる 問題の鍵(か)ぎいなっ
               (問題の鍵(か)ぎなっ)
 他のことばでも、例えば「口(く)ちょ(を)開(あ)けっ」「足(あ)しゃ(は)遅(お)せ」「外(そ)て(に)出(で)れ」というような表記をする送りがなが、助詞の働きをすることになりますので、この点も勉強していただきたいと思います。


薩摩郷句鑑賞 10

割勘ち勘定書を見っからきし吐えっ
(わいかんち つけを見っから きしかえっ)

大山 元師

 ぼつぼつ忘年会シーズン。不景気だの、不況だのと言われるが、忘年会は盛んなようである。「そんなことを忘れてしまうのが忘年会だよ」と、飲ん平も言い分けには事欠くまい。
 飲めば二次会三次会がつきもの。酔って肝っ玉の大きくなったところで、まるで自分の奢りのように連れて行ったのであろう。ところが、その勘定が予想外に高かったので、「割勘にしよう」と言い出したのである。けちな課長だったのかも知れない。
 ※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋



薩 摩 郷 句 募 集

◎2 号
題 吟 「 煩悩(ぼんの) 」
締 切 平成20年1月7日(月)
◎3 号
題 吟 「 点(てん) 」
締 切 平成20年2月5日(火)

◇選 者 永徳 天真
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892−0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会『鹿児島市医報』編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:y-ishigaki@city.kagoshima.med.or.jp


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