緑陰随筆特集

院 内 喫 煙 と 健 康
東区・紫南支部
(今村病院分院) 
             中島  晢

 現在各医療機関の関係者の方は喫煙の問題で大分困っておられる事と思う。私の見た限りでは職員以外に患者さんの喫煙者も予想以上に多いようである。入院を機会に、そして健康のために止める事ができないのであろうかと思うのは喫煙の習性のない私の独り善がりであろう。鹿児島産業保健センターや鹿児島県医師会も喫煙の害に関して盛んにPRしておられるが、さてその効果の程は如何であろうか?私の勤務する医療機関においても現在院内では禁煙であるが病院構内においては禁煙にしていない。最近女性の喫煙者が増加の傾向にあるようで問題となっているが女性の場合、若くて、特に妊娠や出産機会の多い20歳代では4名に1名が喫煙しているとの調査結果がある。ニコチンは母乳に血液中より2〜3倍も濃縮された状態で出てくる事を考慮すると妊娠、出産に際して胎児や新生児に何らかの影響がある事は明らかである。個人の嗜好だとして大目にみられていた喫煙も、いわゆる副流煙の問題に加わるに、国内外における有害性に関する多くの医学的エビデンスに基づいて「ニコチン依存症」(nicotine dependence)という一つの疾患と見なされている。諸々の研究成果の一端を列記してみると第一に糖尿病患者の喫煙は腎症の独立した危険因子であり喫煙習慣があると約2.1倍の発症リスクがあるとの事である。最近、アメリカのスタンフォード大学における研究によると少なくとも1960年代よりタバコには相当量のポロニウムが含まれている事が分かっており、従ってソ連のKGB(ソ連国家保安委員会)の職員であったアレクサンダー・リトビネンコ氏が放射性ポロニウム210を飲まされて後日死亡した際にはタバコ製造会社は大あわてをしたとの事であるがどうしてタバコの中にポロニウムが含まれているのか不明であった。その後前述のスタンフォード大学の研究によると地中にはウラニウムが分解してできたポロニウムが存在しており、それがタバコの葉に選択的に吸収されていると報告している。要するに喫煙者はわずかずつではあるが体内にポロニウムを蓄積しているのである。タバコには2千以上の有害物質が含まれていると言われておりポロニウムもその一種であろう。リンを高濃度に含有する肥料を使用しているタバコ畑ではリンとウラニウムは結合し易いので、従ってそのウラニウムが分解してポロニウムを多く含む土じょうの畑になるとされている。1975年にフィリップ・モリスという有名なタバコ製造会社の研究室員は長寿で有名なコーカサス地方のタバコ生産者である農民も長寿であるのはリン酸肥料を全く使用しないからであろうと推測している。それではどの程度の量のポロニウムが通常タバコには含まれているのであろうか。1968年にアメリカのタバコ会社は研究を始めており、その結果平均一本のシガレット当り0.04ピコキューリーのポロニウム210を体内に吸い込んでいると結論した。そして会社にとって不利な事にタバコのフィルターを使用してもポロニウム210は徐去できなかったのである。この事が内部のある研究者によっていわゆる内部告発され、訴訟に発展した。(キューリーはポロニウムの発見者のキューリー夫妻にちなんできめられた放射線の単位。1ピコは10億分の1mg)。ポロニウムは体内に入りこむと長崎に投下されたプルトニウム原子爆弾の場合より半滅期が長く138日であるとされ、これはウラニウムやプルトニウムの何千倍もの長さであり、長期間体内で人体に障害をあたえるのである。今全世界で約5兆7千億本の紙巻きタバコが毎日吸われているが仮に1本につき0.04ピコキューリーのポロニウムを含有するとこの放射性原素であるポロニウムがタール、ニコチン及びシアン化合物等と共に4分の1キューリーがタバコ喫煙者の体内に毎年吸収されているわけであり、別の角度からみると1日に35本吸うと胸部単純レントゲンを1年間に300回撮った量の放射線をあびた事になる。WHO(世界保健機関)では2020年までにおよそ1千万人が喫煙による疾患で死亡すると推定しており、別の研究では年間540万人が死亡し、これはジャンボ機が1時間に1機墜落し全員死亡しているのと同等だと発表している。今世紀末までには死亡者が10億に達するとの報告もある。タバコ製造会社は砒素、シアン化物、ニコチン、タール等までは健康に害がある事を認めたが放射性物質、すなわちポロニウム210含有の問題が内部告発によって一般に知られるようになると困惑しているようである。しかし喫煙はコーヒ等の嗜好品と同等にあつかうわけにはいかないであろう。タバコが放射性物質を含んでいると愛煙家の方々が分かってきたらその反応はどうであろうか。前KGB職員のリトビネンコ氏と同じ運命をたどるかも知れないのである。勿論影響はいわゆる副流煙を吸わされる身近な人々、特に家族にもおよぶ。人間はある面で血管と共に生き、そして血管と共に人生を終えるとさえ言われている。その血管を硬化させる七悪の一つが喫煙である(他は肥満、高血圧、ストレス、高脂血症、糖尿病、高尿酸血症)。英国では最近従来の公共の場所に加えてレストランやパブも含めて全ての屋内を禁煙にした。スウェーデンにおける研究によると喫煙者は非喫煙者に比して年間の病欠が平均して1週間多いとの事である。しかし日本でも全国内で一生懸命に禁煙に努力している方々も沢山居られる。忍耐強く頑張ってもらいたい。タバコからの税収入より喫煙による健康障害の治療費が2倍以上必要との事である。面白い事にアメリカ及び英国の「がん予防の原則」のPRでは最初から喫煙をやめる事で始まっているが日本の国立がんセンターの発行によるパンフレット「がんを防ぐための12か条」では第一にバランスのとれた食事を云々で始まり喫煙は第5番目に記されている。文化的背景、又は国民性の違いかも知れない。そう言えばアメリカのタバコにははっきり喫煙によりガン発生の可能性が記されているが日本では如何?何はともあれ自分の健康のため、そして家族のために愛煙家の方々は禁煙目指して、決してあきらめずに頑張って下さい。第二の新しい人生が始まります。




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