
今年、6月25日の毎日新聞ニュース記事に『糖尿病:40歳以上の患者・予備軍、33.3%に! 06年厚労省調査』というショッキングな見出しが掲載されていました。06年10月1日の推計人口に基づく推計では、有病者は約830万人、予備軍は約1,490万人に達する事になります。
(ここでいう糖尿病有病者とは、HbA1c6.1%以上かインスリン注射・血糖降下薬を服用している方、予備軍とは、HbA1cが5.5%以上6.1%未満の方を指します)
日本の糖尿病患者数の増加率と、自動車登録台数の増加率、及び脂肪の摂取量の増加率はほぼ一致しているというデータがあり、運動不足や活動量の減少と肥満の増加が糖尿病人口を増やしていると考えられています。この著明に増加する糖尿病に対しての治療・予防は、健康寿命・疾病構造・医療費削減においても非常に重要な課題であり、対策として生活習慣の改善、特に食事と運動の両輪改善が重要となっています。
私達理学療法士は、この糖尿病に対し特に運動療法を通じて治療・予防に取り組んでいます。糖尿病の運動療法は、ストレッチ・有酸素運動・筋力トレーニングの大きく3つに分かれていますが、最もポピュラーなのは有酸素運動である速歩(ウォーキング)でしょう。ウォーキング実施の詳細は成書に譲るとして、大切なのは強度と時間だと考えています。一般的に強度に関しては、運動時の脈拍を基準としており138−年齢÷2での脈拍数を目標に(ニコニコペースで)ウォーキングをされる事をお勧めしています。実施時間帯は、低血糖予防を考慮して食事1〜2時間後を推奨しています。20分〜30分の運動継続が可能であればベストに近いとは思いますが、最近の研究では、30分連続して歩いても10分の歩行を3回に分けて行ってもエネルギー消費は同じであると言われており、まとまった運動の時間が取れない方々へも小刻みの運動時間の積み重ねが大切との認識を持って頂いています。
また、2006年7月に厚労省から「健康づくりのための運動指針(エクササイズガイド)2006」が発表されました。このガイドの特徴は、日常の家事や歩行・階段昇降等の「生活活動」を「運動」と同等に扱っている所です。そして身体活動量を「エクササイズ」という単位で示し、「1週間で23エクササイズ以上(そのうち運動が4エクササイズ以上)の活動を実施」を健康づくりに必要な目標としています。つまり、バス停を1つ前で降りて目的地へ歩くとか、職場でエレベーターではなく階段を利用するといった形で「生活活動」を増やせば、本格的な「運動」の時間が少なくても十分効果を得られる事が科学的に示されています。犬を飼っている方は、そうでない方より長生きであるとの報告もありますが、日ごろの犬との散歩が「生活活動」を増やしていると言えるのではないでしょうか。
日常での効果的な運動のコツは「NEAT(ニート)」にあると言われています。ニートとは「Nonexercise Activity Thermogenesis」の頭文字を取ったもので、直訳すると「非運動性活動熱発生」となり、運動ではない日常生活の活動(家事、通勤・通学、労働、趣味など)で発生する熱量の事です。日常の中で、立ったまま家事をする・テレビを見る・本を読む、またバスの中で座らず立つなど運動とはいえない軽い動きをまめに行う事で、身体が消費するエネルギーが増えます。その結果として、ニートが高い人では肥満が少ない事が明らかになっています。注意点としては、ニートは食事療法との組み合わせで効果が出てくるので、食事療法をしっかり行う事が大切です。
もう1つ重要なものが「筋力トレーニング」です。運動は、細胞の糖輸送を担うタンパクであるGULT4の量を増加させ、インスリン感受性の向上にも寄与し、安定した血糖コントロール維持に不可欠です。また、最大の糖の取り組み口である筋肉を増やす事は1日の消費エネルギーを増やし肥りにくい体質を作ってくれます。日常生活の活動消費エネルギーの7割は基礎代謝量で占められていますが、この基礎代謝エネルギーを最も消費している臓器が筋肉であり全基礎代謝量の4割にあたります。しかし、筋肉量は年齢と共に減少していきますので、加齢により基礎代謝が減り、それが中年肥りの原因と考えられています。筋力トレーニングにより筋肉量を維持する事は基礎代謝量を維持し、消費エネルギーを増やす事で肥りにくい身体を手に入れる事を可能にします。
最初にお話しました有酸素運動であるウォーキングは、いまある血糖を下げ脂肪を燃焼させる急性効果があり、銀行で言うと短期的な出し入れのための“普通預金”に相当します。もう1つの、糖の取り込み機能向上と身体の基礎代謝を高める筋肉トレーニングは慢性効果であり、中長期的な資産づくりの為の“定期預金”という事ができます。糖尿病の治療のみならず、予防、また健康な身体を保つにはこの両方の組み合わせが非常に重要です。筋肉トレーニングは、鉄アレイやマシンなどの機材がなくてもどこでもできる事が継続の秘訣です。デスクワーク時、椅子に腰掛けたまま両下腿を交差し上になった足を重り代わりに下の足(膝)を伸展させ大腿四頭筋の筋力増強運動や、私は髪をドライヤーで乾かす時は必ずスクワット(スロートレーニング)を同時進行しています。特別に運動の時間を設けなくても、工夫次第で継続は可能です。
ご存知の方も多いと思いますが、今、巷では、ビリーズブートキャンプのDVDが爆発的に売れているそうです。運動量や内容はともかく(非常にハードな内容です)何故、このようにヒットしたのでしょうか?芸能人の宣伝効果も勿論あったと考えますが、運動をしている時(苦しい時)の励ましの一言「グッジョブ!」「君ならできる!」「苦しい時は休んでもいい。でも諦めるな!」「人生を変えるんだ!」などの名言が背中を押してくれます。また、同時にDVDの中で10人程のメンバーが一緒にエクササイズを実施している様子が、購入者にとって自分は1人ではない、皆と一緒に動いているという連帯感を感じ継続に繋がっているようです。この事からも、運動継続の秘訣は、「楽しみながら、かつ仲間を増やして、いつでもできる」が基本となると思います。
今日からできる、日常生活での活動性向上のために!
1.スーパーに行くときは速足、遠回りで!
2.買い忘れ等に気づいた時、“また歩けるぞ!”とプラス思考。
3.ニュースや好きなTVを見ながらストレッチ運動。
4.TVのコマーシャルの時間、椅子で膝を伸ばして保持を!(大腿四頭筋の筋トレ)
5.TVの前にいる時間を制限、もしくは決めましょう。
6.エレベーターやエスカレーターは使わずに階段を(時間のない方は、エスカレーターを階段代わりに)
7.外出時は、自転車を使うか、歩いていく。
8.車は駐車場の遠い場所に停める。
9.犬を散歩に連れて行く。
10.立って家事をする・本を読む・テレビを見る。
11.電車・バスの中では座らず立つ。
12.目的地の一つ手前のバス停で降りて歩く。
13.仕事場では、昼食時間の一部を歩く時間にする。
14.ショッピングの前は下調べを!(いろいろ歩きましょう)
15.家での運動器具は、使用しやすい場所に置く。(ながら運動をし易く)
16.家族ぐるみで計画してみましょう。
17.数値が目に見えると励みになります。
(万歩計等の利用)
上記項目を参考に、御自分のライフスタイルを見直してみられては如何でしょうか。糖尿病にならない(負けない)生活習慣に向けて頑張っていきましょう!

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