鹿市医図書室

「 改 革 」に ダ マ さ れ る な !
私たちの医療、安全、教育はこうなる
西区・伊敷支部
(宇根クリニック) 宇根 文穗

 なんのための「改革」なのか、そろそろふりかえる潮時 − 関岡 という見出しから始まる本文を読み出すと、「なるほどそうなのか。うん、うん。こりゃ、大変じゃ」と思いつつ一気に読んでしまう本である。
 著者の関岡氏は、前著「拒否できない日本アメリカの日本改造が進んでいる」で、日本がアメリカに好都合な国に変えられて来ているメカニズムを明快に説き、多くのジャーナリストや政治家に影響を与えている論客である。
 もう一人の著者和田氏は精神科医で教育評論家としても活躍している方だが、関岡氏の著書に感銘を受け、今回の対談形式の共著本ができたようである。
 毎年アメリカ政府が出してくる「年次改革要望書」や、(日本の)経済産業省が公表する「日米投資イニシアティブ報告書」なる公文書があり、その中には日本における「改革」が要望として書かれているのだという。過去数十年日本で行われたさまざまな分野での規制改革、法改正の少なからぬ部分が前記の要望書や報告書に明記されているという。さればこれらの「改革」は日本にとってより、アメリカにとっての必要性が高いということで始まったものであるから、あとになってとんでもないことが日本社会に現れてくるのではないかと著者は危惧している。
 この5月から解禁された三角合併という手法で、外資は日本人が汗水流して築き上げた日本の大企業を完全子会社化しやすくなる。残業代ゼロ(ホワイトカラー・エグゼンプション)で人件費を圧縮し、リストラし、社宅や療養所などの資産を売却して株主価値を高め、自分たちの利益を得たあとは次の獲物を狙ってさっさと出て行ってしまうということが可能となるらしい。三角合併は04年に、ホワイトカラー・エグゼンプション制度は06年の要望書にアメリカが要請したことが書かれているとのことである。
関岡英之著、和田秀樹著 PHP研究所
2007年4月発行 207P 1,365円(税込み)

 医療制度「改革」についても鋭く切り込んでいる。医療制度「改革」の仕掛け人が自著の中で明かした本音は、患者の自己負担率が高まれば、自己負担分をカバーするための民間保険会社のビジネスチャンスが広がる、ということらしい。なるほど、昨今外資系民間保険会社のCMを良く見る。これ以上自己負担率が上がれば公的医療保険は保険として機能しなくなるのではないか。
 04年4月、ときの総理が唐突に混合診療の解禁について年内に結論を出すように関係閣僚に指示を出した。混合診療解禁推進役の、規制改革・民間開放推進会議議長が保険会社の経営者でもあるのは利害の抵触にあたる、との指摘も含め日本医師会は強力に反対した。それでも、その年の暮れには混合診療は一部解禁された。しかしなんと総理指示の半年前に米国国務次官が混合診療解禁を日本政府に要求していることが報道されているらしい。更に、経済産業省が公表している05年の「日米投資イニシアティブ報告書」にも「米国政府は魅力的な企業投資の観点から、いわゆる混合診療の解禁についての関心を表明した」と書いてある由。優れたわが国の国民皆保険制度を、まさに「アメリカのいいなり」で崩していくのはなんたることだろう。次の要望、狙いは教育らしい。
 関岡氏は05年の春、自民党議員の勉強会に招かれ年次改革要望書のことを話した。それがきっかけとなり、郵政民営化の背後にアメリカの圧力のあることを知った議員たちが立ち上がったが、刺客に議席を奪われたりしたのは記憶に新しい。そのわけが今になって良く分かったように思う。また、マスコミの伝え方も適切でなかったこともあらためて思い知らされた。



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