鹿市医郷壇

兼題「 腕(うで) 」

(332) 永徳 天真 選




 錦江支部 城山古狸庵
若け頃ん名医も腕が錆でけっ
(わけ頃ん 名医も腕が さっでけっ)

(唱)歳にゃ勝てんち辞め時く思案
  (としにゃかてんち やめどく思案)

 作者が同業のせいか、実にリアルで大胆な作品です。普通は自ら名医とは言わないので、他人がすぐれた医者と評価しての名医でしょう。その名医も高齢となり、思考力、判断力、そして動作も衰えてきたのでしょうが、これも老いゆく人間の自然の姿です。この現実を、自分にも置き換えて鋭く見据えているようです。




 清滝支部 鮫島爺児医
安月給遣い繰や女房ん腕で頼っ
(やすげっきゅ やいくやかかん うでたよっ)

(唱)感謝をしいし肩を揉ん方
  (感謝をしいし 肩をもんかた)

 五・七・五のリズムがよく、一読明解の作品です。お金があっても、あるだけ浪費して火の車の人もいますが、生活にそれほど余裕のない安月給には切実な問題です。いろいろと切り詰め、無駄なく遣り繰りをするのは誰もができることではありません。ご主人が賢い奥さんを頼りにして、感謝しているのでしょう。




 上町支部 吉野なでしこ
イブニングまこて似合わん太か腕
(イブニング まこてにおわん ふとかうで)

(唱)鏡の前で溜息く付かせっ
  (かがんの前で ういくちかせっ)

 自分なのか他人なのか、定かではないですが、面白い作品です。イブニングドレスでは、露出した二の腕が特に目立ちます。マネキンのような体型であればいいのですが、腕が太い女性にとっては、それが悩みかもしれません。しかし、男性はふくよかだと、魅力を感じたりしますので、颯爽としていれば美しいでしょう。


 五客一席
 伊敷支部 矢上 垂穗
縋っ腕昔しゃ可愛して今じゃ杖
(すがっ腕 むかしゃむぞして 今じゃつえ)

(唱)二人三脚頑張いやんせ
  (ににんさんきゃっ がんばいやんせ)

 五客二席
 武岡 志郎
子が出来っカメラん腕が少す上がっ
(子がでけっ カメラん腕が ちすあがっ)

(唱)あばてんね撮っそら上手もなろ
  (あばてんねとっ そらじょしもなろ)

 五客三席
 大崎町 植村聴診器
腕相撲で三才児い爺は上手じ負けっ
(うでずもで みっつごいじは じょじまけっ)

(唱)喜くっ孫ん良か遊っ相手
  (よろくっ孫ん よかあすっえて)

 五客四席
 武岡 志郎
不味か料理ゆ材料ち腕は棚ね上げっ
(まずかじゅゆ ざいりょち腕は たねあげっ)

(唱)愛情が足らんとじゃなかろかい
  (あいじょがたらん とじゃなかろかい)

 五客五席
 錦江支部 城山古狸庵
腕よっか愛想で流行っ医者も多え
(腕よっか あいそではやっ 医者もうえ)

(唱)優し医者様ち患者あ褒めっ
  (やさしいしゃさち 患者あほめっ)


秀  逸

 紫南支部 紫原ぢごろ
腕を組ん踊った後は息が切れっ
(腕をくん 踊ったあとは せがきれっ)

よか腕も酒と女で腐らけっ
(よか腕も 酒とおなごで ねまらけっ)

寮歌祭歳も忘れっ腕を組ん
(寮歌祭 としもわすれっ 腕をくん)

片腕ん頼いの女房が呆けでけっ
(片腕ん たよいのかかが ぼけでけっ)


 清滝支部 鮫島爺児医
腕競た友人が先き逝っ寂んのし
(うできそた どしがさきいっ とぜんのし)

腕前はグリーン上で物を言っ
(腕前は グリーンじょうで ものをゆっ)

腕ん良か釣い手ん側にゃ釣人も寄っ
(腕んよか ついてんそばにゃ ひともよっ)


 大崎町 植村聴診器
手術台命つ預かい医者ん腕
(しゅじゅっだい いのつあっかい 医者ん腕)

細腕ち言が子育しな頑丈母
(細腕ち ゆがこおやしな がんじょかか)


 上町支部 吉野なでしこ
子育しで逞しゅなった乙女ん腕
(こおやしで たくしゅなった おごん腕)

体力も腕立て伏せい現われっ
(たいりょっも うでたてふせい あらわれっ)


 武岡 志郎
タレントん腕で県政ゆば負託しっ
(タレントん うでけんせゆば ふたくしっ)

養育が腕も地声も太となけっ
(こおやしが 腕もぢごえも ふとなけっ)


 錦江支部 城山古狸庵
若け言てん孫にゃ叶わん腕相撲
(わけちゅてん 孫にゃかのわん 腕相撲)


 作句教室

 今月の作品は秀句が多くて、選も迷いました。それぞれの作品には、作者の思いが込められていて、それが読み手に伝わってきました。
 課題吟の場合、その課題を強調することが基本です。例えば今回の課題で「腕も地声も」という表現の作品がありましたが、「腕」と「地声」が同レベルになって、課題の焦点がぼやけてしまうことになります。
 他の例では、「上(うえ)」という題に対して、「上(うえ)と下(して)」や、「嬉(うれ)し」という題に対して「嬉(うれ)しゅ無(な)か」なども、課題に対して的が外れることになります。


 薩摩郷句鑑賞 3

追出っから新憲法を読ん直えっ
(うでっから 新憲法を よんなえっ)
               大田 麦秋

 夫または妻の一方的な都合で、簡単に離婚のできないことは、現在は誰でも知っている。しかし、これは「出て行け!」と、いわゆる追い出すことができた時代に育った人の話。
 旧憲法的感覚で、奥さんを実家に追い帰したものの、「一体、新しい法律はどうなっているのだろう」と、改めて読み直してみるところがおかしい。気短で、事に臨んで思案ちゅうちょせず、即決して行動に移すというような、鹿児島の気質がうかがえるような句である。


湯気が舞っ隠居い走いかから団子
(ほけがもっ 隠居いはしい かからだご)
                山内 成泰

「かから」というのは、サルトリイバラのこと。まだ「くゎくゎら」と発音する人も多いかも知れないが、その葉っぱで包んだ団子が「かからだご」である。
 明日は端午の節句、今日あたり「あくまき」(あっまっ)を作っている家が多いだろうが、「かからんだんご」も今ごろよく作る。できたての団子を、隠居に届ける情景を詠んだものだが、誠にほほえましい。
 ※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋

薩 摩 郷 句 募 集
7 号
題 吟 「 時(とっ)  」
締 切 平成19年6月5日(火)
8 号
題 吟 「 機嫌(ごっ) 」
締 切 平成19年7月5日
◇選 者 永徳 天真
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892−0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会『鹿児島市医報』編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:kasiisoumu-e@po.minc.ne.jp


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