随筆・その他
韓 国 肛 門 医 金 先 生 の 著 書 |
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韓国釜山の肛門科医金乗日先生が「肛門病、治療、と予防」(1955)という本を出され、不肖小生にも贈呈された。何分韓国語なので翻訳するのに手間が掛かりついつい億劫になり、そのうち私の病院が大洪水で浸水したり、病院自体が移転することになったり、書棚も分散してしまい、そのうち失念して今日に到ったものでかねがね金先生には誠に申し訳ないことをしたと思っていた。ところが最近、紛失した筈の本が偶然発見されたので改めて読み直してみるとなかなか面白い。出版されてから50年以上も経っているのだから医学的な内容は古くなっているが著者の人間的な温かみに触れることが非常に多かった。
開業片手間の執筆生活の中にあって肛門科診療に熱烈な情熱と愛情を傾けておられることに敬意を表する。読み終えて金先生および協賛された先生方にお礼の手紙を差し上げようと釜山医師会に問い合わせたが先生方は何れも亡くなっておられた。非常に残念で申し訳ないことをしたと後悔している、しかしこの著書をこのままにして置くに忍びず、その大綱だけでも書き止めて金先生の恩に報いたいと考える次第である。
著述内容抄録
*経済力が弱い(保険が無い)ので手近な医者で金を払うのが困難であり、肛門科医も少なく、研究しようとする医者も外国に比べて少ない。(現在、事情は異なっていると思う)
*秘薬とか薬物療法の商人医者が多く彼らの甘言利説に騙されて取り返しのつかない結果になった人が多い。(日本も似ていた)
*肛門科医と称するはったり医者が批判を受けるような治療を敢行している例も多い(出版推薦者、張起呂先生)
*本は読者が読みやすいように編集するのは決して優しいことではない。このように絶えざる努力によりこのことを達成したのは著者の努力が光を添えたものである。(出版推薦者、伊特善先生)
*この本を刀圭会の先輩後輩の前に贈るが不備な点を考えると恥ずかしさを禁じえない、私自身これから更に眷属研鑚、努力する事を誓う(緒言、金乗日先生)
痔核発生経過の大意
*生活様式は……韓国式家屋土間に座る、オンドル生活、しゃがむ、あぐらをかく中年以上の人に見られる長い習慣である。トイレは尻を広げてしゃがんでいる、力を入れる、狭い、長い時間気張っている、風が下から吹き上げて冷える。生活習慣、経済上の問題、家の面積の関係でこうなり簡単に変えられない。
*旅行は……枕が替わっても眠れない人、自分の便所でないと排便出来ない人は旅行が予想される時は馴れた緩下剤を携行したが良い。
*スポーツは……登山、ゴルフ、スキーは痔核製造工場といえる。痔核のない釣り人は良い獲物を得られない。
(次は痔核保持者に取っては切実な問題である)
*セックスは……折角喜びながら相当なところまで来た時に急に尻に痛みが来ると、もう関係どころでなくなる。剛直なものは萎びてしまう。女子は痔が悪いから出来ないと言っても男子は後に引けない。無理に要求に応じていると女の脱肛が酷くなる。夫婦間で話し合わねばならぬ。回数や体位、時期だけの問題ではない。前戯を充分取らなければならないがこれは夫婦の年齢が加わるとそれほど難しくない。旨くやって子供が眼を覚まさないうちに終らせる。挿入してから時間を延ばすよりその前に情感を味合うがよい。こうしたら特に尻に力を入れること無く楽しめる。挿入後は女子が脚を進展位とすれば密着感も強く肛門の負担も軽くお互いの満足感も充分である。挿入後は余り時間を掛けないほうが良い。
*肛門セックス……近年鶏姦が流行して居る。生理中または出産後に特に利用され、女子も之を楽しんでいる。後はシャワーで流すか肛門の回りを衛生綿で念入りに拭くのが肛門の為に良い。
*肛門手術後経過……退院は3〜4日でも完全治癒には1ヶ月掛かるのが普通である。術後6週間完全に自覚症状が無い時が完全治癒と許される。
*肛門出血……痔核のほかに限局性大腸炎、クローン病、大腸がん、ポリープなども考えるべきである。
*痔核は遺伝病……蛙の子は蛙である。生活様式が似ている。四足動物には痔はない、造物主が二本足で歩く人間の代償として痔という病を与えた、痔は疼痛の王座である。
*自然療法……都市のスモッグの中で生きる植物は大自然の摂理に逆らう為に弱って枯れる。我々も全体としての身体の構造を知ってそれに合った生活様式を取るべきである。例えば人間の呼吸にも心理状態、嬉しい時、哀しい時深い関係がある。欠伸も同じ、酸素の身体内のバランスを維持する努力が自然療法である。
精神的な余裕を求める。現代は心の均衡の維持が難しい時代である。肛門に限らず我々の健康の管理は全身の個人の気遣いに掛かっている。
50年以上前のご意見だがその頃は先端技術とされていた凍結手術なども記載されている、しかし医学上よりも人生の行き方を教えられたと感銘している。何分韓国語翻訳のぎこちなさから著者に意向を充分確かめないままになってしまったが、著者の人間味を評しておきたく、しかも年月を経た今日でも通用することを考えてここに紹介する次第である。

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