随筆・その他
『 飲 酒 運 転 の 恐 怖 』


          南区・谷山支部
          (入佐内科胃腸科) 入佐 俊昭


 飲酒運転による悲惨な事故が報道され、大きな社会問題と認識されてきました。過去にも大きな飲酒運転による事故が報道されましたが、いつのまにか忘れられ消えていき、軽犯罪的に扱われていた気がします。西川博士著の「内科診療の実際」によりますと、血中アルコール濃度と酔度の関係は0.1%は微酔で0.2%軽酔、0.3%深酔、0.4%泥酔と記載されています。アルコールが脳の中へ浸入してくると、脳は大脳皮質から始まって間脳、中脳といき最後に延髄という順にその部分の代謝が抑えられて細胞の働きが鈍ってきます。大脳皮質の働きが鈍ると、間脳、中脳など大脳皮質以下の部分の働きが一躍クローズアップされて、前面に出て来る「解放現象」が起こってきます。この状態で車を運転されたら、自分にも他人にも大きな迷惑をかけることになります。即ち血液中のアルコール濃度が0.05%〜0.1%の場合、酔いの状態では頭の中で最も高等な精神作用を営む大脳皮質が興奮し、次ぎに少し麻痺して人間としての価値がやや下がったときの状態になります。このホロ酔いの時、運転しながら普段であれば言えない言葉や、とりとめのない話、当意即妙の言葉など口が軽くなっています。また交通状況への読みも浅くなり、正常なら無理で危険な場合も浅き読みが故に無茶な運転で大事故のもととなります。さらに血中アルコール濃度が0.2%をこすと、個人差はありますが、大脳皮質の働きが完全に抑えられて、情緒についての機能を持っている間脳の働きがイニシアティブをとるようになります。普通なら何も感じない「言動」に対して、判断力、自制力など頭の抑制過程がやられているから抑えがきかず興奮してしまいます。自己判断は全くお留守になり、他人に迷惑をかけても平気な顔をしているのです。この頃の人柄はいつものとはすっかり別の人間になってしまいます。人間というよりは脳はあっても無きに等しい状態で「欠脳人」になっているのです。この欠脳人の運転は、脳の一部の働きの無い不完全な人間で抑制力、自己判断力を欠いているが為に、想像し得ない危険を犯すわけです。血中濃度が0.3%以上になると間脳、中脳までやられてしまって全く天下無敵の状態になってしまう。特に注意したいのは、運転していると少量のアルコールでも疲労に倍加され容易にこの状態に陥るということです。感覚はマヒして手足の運動は自由を失います。言葉はまとまりの無いことを話し、ロレツが回らなくなります。ついにボヤッとしてアクセルから足が離れず、対向車と石壁と電柱と人家と或いは、人の列へ突進してしまいます。注意散漫の為、アクセルを離すまでの反応が遅く、或いは消失し事故を起こすのです。車から降りて家を間違ったり、道路上に寝て車にひかれて往生などという状態になります。0.6%以上では延髄がやられて呼吸、循環など生命に直接関係している中枢がやられるわけですからもうだめです。アルコールには強い、酔わないと自己判断して、車を運転するドライバーは多いことでしょう。微酔でも泥酔でもカラオケで歌い叫べば、たちまち欠脳人へ。楽しい食事会やスポーツ後のあの美味しい一時が、ドライブで一転地獄と化すのは誠に悲しいことです。自らも他人も貴重な人生が台無しです。アルコールは少量でも欠脳人になることを伝え、飲酒運転は酔度差の無い犯罪と断じるべきでしょう。


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