緑陰随筆特集
生活習慣病予防を目指して 武岡台高校の取り組み
武岡台高校は、本年で開校20年目を迎える。本校開校6ヵ月前に校医に任命されたので、高校の校医は何をすべきかを考えた。価値ある一言を言えるような校医でありたいと思った。
高校生一人ひとりの長い一生を考えると、動脈硬化に関る一言が良いと思い始めた。実際、高校の中に入って知ったが、「学校保健全体計画」という膨大な精細を極めた計画があり、これをはじめに見せられていたら、特別な事は考えなかったかも知れない。
コレステロールの過剰摂取、塩分の過剰摂取が動脈硬化に大きな影響を持つことが既に指摘されていた。コレステロールと塩分について、検索したいと思い始めていたとき、「尿中食塩濃度測定用の簡易キット」を売り込みに来た。是は、昭和59年「医学の歩み」に掲載されていた「尿中食塩濃度の簡易測定法」の製品化であり、是を利用しようと思った。
初代校長に内定しておられた林洋右先生にお話したところ、「健康教育として取り入れよう」とありがたいお言葉を戴いた。
実際の仕事をする保体、養護の先生と具体的に詰の話し合いをもったら、「末梢血」を知りたいという希望があり、初めは、スピッツ2本の採血は抵抗があろうかと「末梢血測定」と「尿中食塩濃度測定」から始めた。
平成17年度を主体として報告する。
実施者数
平成17年度は、尿中食塩濃度検査は一学年305名、2年生3年生の希望者41名、血圧測定、貧血検査、血中脂質検査は309名(一年生全員)、2年生3年生の希望者138名。
検査結果
血圧測定については、5名が軽度上昇、血色素基準値以下は14名、いずれも、主治医に連絡。
食塩濃度測定は、14g/l以上を異常、6g/l以下を望ましいと判断している。初年度は、男子16.2%、女子22.1%が望ましいと判断していたが、17年度では、男子46%、女子42%に上昇した。年々、望ましい%が上昇しており、先生方の努力とか生徒たちの自覚を示していると思う。
望ましい尿中食塩濃度6g/以下の18年間の推移
とりすぎの尿中食塩濃度14g/以上の18年間の推移
|
肥満度をBMIで示すと、女子5.3%、男子7.0%が肥満。
総コレステロールの度数分布を示す。160−170mg/dlを中心とする。
200mg/dl以上を異常と判断すると、女子18.1%、男子6.6%が異常。
中性脂肪は男子1.4%、女子2.2%が高値、男子8.8%、女子7.3%が低値。
善玉コレステロールは男子0.9%、女子5.6%が高値、男子1.4%、女子0.9%が低値。
総コレステロール度数分布
高コレステロール者の年度別推移は、平成5年度からを見ると、男子7.1%、女子16.5%であったが、平成17年度では、男子7%、女子19%で、男子の平成7年度から見ると漸増傾向にある。
高コレステロール者(200mg/以上)の年度別推移について
|
日本学校保健会平成10年度版「児童生徒の健康状態サーベランス調査」によると、高校生のコレステロールは、男子では約12%、女子では約22%である。平成4年報告の日大小児科の報告では、東京都内高校3年生では、男子4.0%、女子21%であり、平成7年度の鹿児島市内3高校の成績では、A高校男子5.6%、女子19.5%、B高校男子3.9%、女子19%、C高校男子6.4%、女子19.9%であった。
これらの結果を綜合して判断すると、コレステロールは漸増傾向にある。
コレステロールとBMIとの相関は、男子では、肥満に20%の高値、13.3%の低値、女子では、肥満に15.4%の高値、7.7%の低値、標準では21.1%の高値、3.9%の低値が見られる。
中性脂肪とBMIの相関は、肥満の男子に6.7%の高値、女子では7.7%の高値。善玉コレステロールは「やせ」の女性に15.4%の高値。
中性脂肪とBMIの相関
運動により、善玉コレステロールは増加するといわれているので、2年生3年生の57名(運動部員31名)、女子79名(運動部員21名)で比較検討した。中性脂肪については減少するといわれているので、同じ男子57名と女子82名(運動部員21名)で比較検討した。善玉コレステロールはわずかではあるが、増加しているように思える。中性脂肪については、男子はわずかながら減少しているように見える。女子は判断しにくい。
運動部員と文化部員の部活はコレステロールにいかなる影響を与えるか。是は、約12%運動部員の方に低値が見られる。
バス、徒歩、自転車による通学手段でコレステロールはどうなるかというと、是には差は認められなかった。
食事との関係については、平成10年度の報告である。
総コレステロール200mg/dl以上の生徒と正常の生徒を比較すると、高値の生徒の特徴は、朝食を毎日とるのが、77.5%。残りは時々摂る。摂らない生徒の理由は、食欲がない。時間がない。昼食については、高値者も他の生徒もよく摂る。内容は、弁当、パン、牛乳、ジュースで差はない。夕食は皆摂る。間食は高値者が多い。時間的には、放課後、自宅。夜食は高値者は25%が摂る。内容は菓子、麺類、パンなど。
食事の内容について。
味噌汁は家族に高血圧の人がいる家と食塩濃度高値者に毎日摂る人は多い。当然ながら塩辛いのもよく食べている。インスタント食品も食塩濃度高値者は良く食べる。スナック菓子は食塩濃度高値者には少ない。加工食品は全体がよく食べており、毎日、週に2−3回を合わせると75%になる。冷凍食品は6g/1以下の者が多い。獣鳥肉類は全体によく摂っている。90%になる。その中では、総コレステロール高値者は毎日摂る者が少ない。魚介類は食塩濃度高値者に毎日食べる人が多い。卵を毎日食べるのは家族に高血圧症のいる人が多い。豆腐、納豆、大豆類は食塩濃度高値者はよく食べている。昆布類も食塩濃度高値者がよく食べている。野菜類については、皆良く食べているが、食塩濃度高値者は低い。果物も低い。レバーは殆ど食べていない。牛乳、乳製品は83%ぐらいが摂っている。その中では食塩濃度高値者はやや少ない。
高校生は自分の健康状態を極めて健康、だいたい健康と思っている。自分で自分の健康管理を心がけているかと問うと、3年生ほどイエスと答える。今、悩んでいるのはと問うと、勉強、進学のことであり、健康を考える生徒は少ない。
尿中食塩濃度高値者を平成5年度から7年度まで3年連続経過観察すると、男子12名、女子13名ではあるが、男子は全員正常化した。女子は、2年目92%、3年目85%の正常化であった。
コレステロール高値者については、平成5年度より7年度まで、男子19名、女子38名で観察すると、男子の9名が高値から高値へ、4名が高値から正常値へ、女子では、21名が高値から高値へ、13名が高値から正常値への変化であった。
同じく、平成15年度から17年度で、コレステロール高値者、男子28名、女子47名で観察すると、男子15名は正常から正常の変化、6名は高値から高値へ、5名は高値から正常値へ、女子では、22名が正常から正常へ、12名が高値から高値へ、同じく12名が高値から正常値への変化であった。これを、折れ線グラフで示す。
総コレステロール3年連続経過観察
結 語
武岡台高校は、生活習慣病予防を目指して、血中脂質と尿中食塩濃度を指標として取り組んだ。塩分については、味噌汁、塩辛い食べ物を減らすと、すぐ、減少すると思われる。また、高校時代に食塩を減らすと胃癌になりにくいという報告もある。味噌汁については、塩分量が問題で、本来は健康に良いと発言された柚木教授の講演を思い出す。
ところが、脂質は簡単ではない、肥満とかやせの体型では判断が付かない。採血の必要がある。運動をすると、コレステロールは減り、中性脂肪は減り、善玉コレステロールは上昇するように思われる。コレステロール高値者の50%から70%は、高値のまま、歳を重ねていくのではないか。
高校生に、正確に数値で示し、事後指導をすると、まず、家庭内での食生活が替わるのではなかろうか。アルコールやタバコの洗礼を受けるのも数年後だから、生活を律する上で、生き行く姿勢のバックボーンを形成するのではなかろうか。限りなく良い面での可能性が予測される。
このようなわけで、高校時代の血中脂質、尿中食塩濃度の測定は大きな意義がある。
謝 辞
この取り組みの経費は、鹿児島市医師会の助成金である。
本校の歴代校長、林洋右、西垣一郎、山下清光、臼井進一郎、泊昭、内村正弘、山本英司、有馬義秀
保体教諭、湯地定豊、下村典弘、吉田正昭、松下久
養護教諭、中野洋子、飯伏富士子、蕨迫美由紀、奥房子、中元恵子
情報科教諭、大迫浩之
上記の方々にお世話になりました。深甚の謝意を捧げます。

このサイトの文章、画像などを許可なく保存、転載する事を禁止します。
(C)Kagoshima City Medical Association 2009