緑陰随筆特集
言  葉  の  表  現


東区・紫南支部
(今村病院分院) 中島  晢


 人間と動物には多くの点で相違があるが中でもお互いのコミューニケイション(意志の疎通)の点で大いに異なるといわれている。海豚(いるか)や鯨(くじら)を筆頭に、いわゆる動物(人間を除く)はその種独自の会話、又は合図で仲間や親子の関係を確認し集団としての生活方式を守っているようである。対話の種類も単純で、せいぜい数種類から数十種類(又はくじらやシャチの場合は数百?)であろう。しかるに我々人間には数えきれない程の日常生活におけるニューアンスに富む、あるいは逆の面から表現すると曖アイ昧マイ模モ糊コとして、うまい具合に「ごまかされる」ような場合も多々あるようである。言葉のうまい言い回しは庶民の日常生活においてお互いの「潤滑油」的な役割りを果たしている場合は歓迎すべきであるが社会の実態、国民の生活、政府や政党の政策の広報、宣伝の場合我々人間の含蓄に富む言葉の悪用、ごまかし、誤あやまった使用等により人間同士の不信感を助長している場合もある。「一姫二太郎」(最初に女の子、次に男の子を生むのが望ましいの意)の誤用や「かんかん、がくがく」(自説の正当性を主張しさかんに論議する事)と「けんけん、ごうごう」(やかましく言い合う事)をごちゃまぜに使用しているのは愛嬌のある誤用であるが多くの国民を対象とする場合は見過ごす事のできない場合がある。最近のトピックスは人類の生存にかかわる「地球温暖化」なる表現がある。「温暖化」という表現は気候があたたかくなる事を意味し、国際的に使用されているGLOBAL-WARMINGの適訳とは思われない。「温暖」という表現はいかにも聞いた感じが良く、実際にはWARMINGのために地球上の多くの氷河が溶け出し、氷河の支えが無くなったためにスイスのアイガー東壁の崩落をもたらし、グリーンランドの650,000年前に氷に閉じこめられた炭酸ガスが放出される可能性があり、海水の温度の上昇で台風、ハリケーン、サイクロンの発生が増加し、2100年までに地球上の温度は摂氏4度上昇し、各地の氷河の溶解により海水面が4mから6m程度上昇するといわれている。従ってこのような人類にとって悲劇的な結果をもたらす現象を「温暖化」と呼ぶのは奇異な感じがする。最近は「地球高温化」と称している専門家が多い。かくの如く我々国民が言葉のニューアンスで誤魔化されている可能性のあるのが政府の諸々の政策に関する用語である。「骨太の方針」(私の勤務する医療機関で意味を質問したら骨を強くする治療法と答えた職員が居りました)は要するに政府の財源の支出を削減し国民が消費税、その他の増税を避ける事ができない事であり、介護や厚生医療関係の法律は「自立支援…法」と名を変えており、その内容を知らないと心地よく響く。何々法の改定(正又は制)も実際は改悪の場合が多い。「前向きに検討します」と政治家の方々が言う言葉も案外その場しのぎの表現かも知れない。戦争中は敗走する事を戦術的撤退と発表した軍部の記録も見聞する。空港などで、時々「機材の都合上」出発時間が遅れますというアナウンスがある場合があるが要するに飛行機の到着が遅れている場合が多い。言葉を生き生きとさせ、気持ちよくするためかも知れない。そう言えば職業安定所がハローワークになったのは大賛成である。最近の若い人達の「ラ抜き」や「はしょり言葉」は若い時代の青春のシンボルみたいなもので賛成しないまでも容認の範囲である。むしろ現在医療機関における「患者さま」がどうして「患者さん」ではいけないのか、これも言葉のうまい具合の、心のこもっていない言い回しのような気がするがどうであろうか。但し別に悪意は勿論無いのは当然であろう。言葉の使用は慎重さと誠意が必要で最近栄養という語は現象で栄養素が物質で「これは栄養があるから食べなさい」ではなくて「これは栄養素があるから云々…」が正しいと教わった。日本語は話す場合も聞く場合も慎重に、ごまかす事なく表現をすべく心掛けが必要かも知れません。

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