新春随筆
第 44 回 衆 議 院 議 員 選 挙 雑 感

元鹿児島市医師会職員 栗毛野 隆


 アメリカはジャズの本場ルイジアナ州ニューオリンズを襲った大型ハリケーン「カトリーナ」を皮切りに、日本では台風14号と同時に残暑熱気の中での小泉ハリケーン(小泉劇場ともいわれていたが)は9月11日の総選挙で、自由民主党が296議席を獲得するという今までにない大勝利を得た。
 予想外のこのような大差がついた理由は何だろうか。云うまでもなく小選挙区の勝負である。
 自由民主党は小選挙区300のうち7割をもオーバーする219議席、民主党は前回から半減の52議席に終ったのである。これを有権者からどれだけ支持されたかを示す得票数でみてみよう。自由民主党3,251万票、民主党2,480万票。
 両党の差は1.3倍だが、議席数では4.2倍超の差がついたわけだ。では得票率ではどうなのだろうか。自由民主党は約48%の得票率で約73%の議席を獲得、民主党は約36%の得票率だが獲得議席数は17%にすぎない。
 小選挙区ではライバルより1票でも多ければ当選となるため、当選に結びついた「生き票」とムダに終った「死に票」が生まれるわけだ。
 つまり今回の選挙では「死に票」に泣いたのが民主党だったということになる。
 ここで小選挙区制の特徴に少しふれてみよう。
 1994年のこの制度導入から今回は4回目になるわけだが、衆議院議員の選挙制度は全国300の小選挙区(一選挙区の当選者は一人)と、全国を11ブロックに分けた比例代表制(180人が当選)とを組み合わせた「小選挙区比例代表並立制」が正式の名称である。
 この制度の特徴として、「重複」という立候補する側にとってみればこれ程ありがたい制度はない。すなわち小選挙区に立候補する一方で比例代表の名簿にも名を連ねることが出来るのである。
 「重複立候補者」は「滑り止め」をかけての立候補者ということが言える。本来は学識経験者達がその名簿に名を連ねるはずだった比例代表制が、いまや「滑り止め」に使われているというわけだ。
 小選挙区に比例代表制が組み合わされたのは、すべてを小選挙区にしてしまうと少数政党が不利になるし、国民の声が反映されにくくなるという理屈からの発想らしいのだが、少数政党への配慮どころかこの「滑り止め」制度をもっぱら愛用しているのは、今や大政党の自民、民主の両党のようだ。
 さて、圧勝をもたらした有権者の切なる思いを小泉首相は真正面から受け、本丸といわれる郵政民営化だけではなく、広範な構造改革を加速させるべきだろう。
 特に自由民主党は、この衆議院議員選挙マニフェスト(政権公約)で「郵政民営化を突破口にあらゆる構造改革を加速させる」と国民に公約したことを忘れてはならない。
 今後の改革メニューが、首相の手がけた道路公団や社会保障などと同じ改悪の連続に終れば次は民主党の出番になるかも知れない。
 勢いのある政党が雪崩式の大勝を収めることがある一方、第一党が壊滅的敗北を喫する危険がつきまとうのが、この小選挙区制の大きな特徴だ。高くジャンプしようとすれば、当然のことながら深く屈まなければならないだろう。この雌シ伏フクのときに、民主党は希望の芽を大きく育てることができるものだろうか。
 第三次小泉改造内閣が10月31日夜発足したが、同日の記者会見で小泉首相はこの内閣を「改革続行内閣」と位置づけていた。
 今後の改革メニューとして、税制改革、公務員削減、医療制度改革、政府系金融機関の統廃合、米軍再編成問題の決着、アジア外交の立て直し等メジロ押しの問題に明確な成果が求められている。
 道路公団や郵政の民営化では多くの妥協が目立った。特に最終段階では官である国土交通省などの手によって骨抜きになった日本道路公団民営化の轍を踏まないように、たとえ小泉政権が平成18年9月に交替したとしても、国民に有益な改革が続く体制づくりがきわめて大切なポイントとなろう。
 (11月8日 前医療法人玉水会事務長)

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